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玉川奈々福「浪花節で生きてみる!」 編集者、うなって走って浪曲師

 どこか涼し気で「突き放す」芸の落語は好きだったが、暑苦しくて「思い入れる」浪曲とは無縁だった。そんな編集者が浪曲師になったいきさつを「恥ずかしながら申し上げ」るのが、玉川奈々福著『浪花節で生きてみる!』だ。

 一生続けられる習い事がしたいと日本浪曲協会の三味線教室に通ううち、二代目玉川福太郎師匠に入門。三味線が下手すぎる、うなってみろと言われ、浪曲師として舞台に。師匠の会をプロデュースし、小沢昭一、井上ひさしらがゲストの浅草・木馬亭は客であふれた。が、師匠は事故で亡くなり、浪曲を聞くのもつらくなった。

 すがる思いで稽古を続けた、ある日の高座。声が伸び、走る。三味線の沢村豊子師匠が「気持ちよかったよ。手がどんどん、どんどん出てきて、どこまでも行ける気がしたよ」。新たな模索が続く。

 大人気だった浪曲は、高度成長期、急激に衰えた。でも今、「悲痛なうなりの必要が、また生じつつあるのかもしれない」。思い入れつつも、冷静に見る編集者の目が生きている。(石田祐樹)=朝日新聞2021年1月16日掲載