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9回表志願の登板 特別な“ヒリヒリ感”を求めて大谷翔平は自らエンゼルスと交渉した

9回表志願の登板 特別な“ヒリヒリ感”を求めて大谷翔平は自らエンゼルスと交渉した

2023/03/22
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 漫画のようだ。

 でもこんな出来すぎた話は、漫画ならば絶対、ボツになってしまうはずである。それほど出来過ぎた、現実離れしたストーリーが、世界一を決めるフロリダの舞台で実現してしまった。

 大谷翔平とマイク・トラウト。

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 二刀流で米大リーグに旋風を巻き起こすスーパースターの大谷。一方のトラウトは、攻守のファイブツールを揃えたメジャー最高のプレーヤーと評されてきた、トップ中のトップの選手だ。しかも2人は同じロサンゼルス・エンゼルスに所属し、レギュラーシーズンでは絶対に対決することはない。そんな2人が、国を背負って最後の最後に直接対決を演じたのである。

決勝の最後で実現した大谷翔平vsマイク・トラウト ©時事通信社

大谷「ランナー無しで迎えられれば1番いいなと…」

 3対2と日本が1点をリードした9回だ。あと3つのアウトを取れば、悲願の世界一奪回を実現できる。

「(ブルペンで肩を)作っている段階で、(最後にトラウトに打順が)回ってくるんじゃないかなと。先頭バッターと2人目を抑えて、ランナー無しで迎えられれば一番いいなと思っていたんですけど……」

 慣れないリリーフ、しかも世界一をかけたクローザーでの登板ということもあったのか、大谷はいきなり先頭打者に四球を与えて、そんな思惑は消えてしまうかに思えた。ただ、ため息がグラウンドを包んだ次の瞬間だ。大谷が続く1番のムーキー・ベッツ外野手を二ゴロ併殺に抑えて、運命はやはり2人の対決でこの舞台の幕を閉じることを求めた。

 大きく息を吸って右打席に入ったトラウトに対して、初球のスライダーが外れる。しかし大谷は160km台を連発して力で押し込んで勝負はフルカウントまでもつれた。そしてフィニッシュは得意のスライダーだった。