日産「エクストレイル e-4ORCE」を清水和夫が実走チェック。『やっちゃえNISSAN』が凄いことになってきた!

■圧縮比が可変する「VC-TURBO」により、賢いシリーズハイブリッドとなった新型「エクストレイル」

清水和夫×エクストレイルe-POWER
清水和夫がエクストレイルe-POWERのe-4ORCEとVC-TURBOを試す

一言で『ハイブリッド』といっても、シリーズ、パラレル、ストロング、マイルド、プラグイン…など、世の中にはいろいろな方式が開発、採用されていることはご存じの通り。

最新技術を盛り込んだシリーズハイブリッド、日産の新型「エクストレイル e-4ORCE」は、発電のためだけに使われるエンジンの圧縮比を、14:1(高圧縮比)から8:1(低圧縮比)の間で可変するという、なにやら複雑な機構を搭載しています。

「圧縮比が可変する」その意味とは? 国際モータージャーナリスト・清水和夫さんが試乗し、解説します。

●出力が要るとき、要らない時の使い分けを、可変圧縮比でコントロール

清水和夫×エクストレイルe-POWER
試乗するのは、お馴染み清水和夫さん

4代目の新型エクストレイル。なんと! パワートレーンが『アッと驚く為五郎』みたいなエンジン積んでいますよ。

可変圧縮比、バリアブルコンプレッション(VC)。と、そこにバリアブルターボを付けるという、ターボと可変圧縮比のシリーズハイブリッド・エンジンですね。

シリーズなので、このエンジンはあくまでも発電用。でも、ただ電気を作っているんじゃない。

清水和夫×エクストレイルe-POWER
発電だけしてりゃ~いい…だけじゃなくなったシリーズハイブリッド

クルマっていうのは、その走行シーンによって、出力が欲しいとき(ワインディングの上りとか)もある。しかし、高速道路を一定で走っているときはそんなにパワーは要らないよね。空気抵抗と走行抵抗と重量分くらいの出力があれば、(たとえば)100km/h一定の速度で走れます。

でも、エンジンで最初に最高速度を狙うような出力を持っていると、余分なことをやり過ぎてしまうのでスロットルを閉じる。でも、スロットルを閉じたらポンピングロスで燃費が悪くなる。一定で走っているときなど、そんなに出力は要らないときは燃費を上げたいという話と、逆に、フル加速して性能を出したいときにエンジン本来の力を出す。

このエクストレイルはシリーズハイブリッドですから、発電の量が変わるんですね。それでエンジンによって発電された電力を、バッテリーとモーターに振り分けていく。

清水和夫×エクストレイルe-POWER
撮影車のインテリアカラーはオシャレなタン

四駆(e-4ORCE)の場合、フロント150kW、リヤ100kWっていう風になっていますから、単純計算して合わせて250kWの加速性能か?というとそうではなくて、モーターの出力はそこに与えられる電力で決まる。その電気はエンジンによって発電されているので、エンジンがフルにどのくらいの出力を上げているかということと、その時にエンジンが可変圧縮比とターボで変わるので、いろいろとバリアブルなんですね。

まぁ、必要に応じて発電量も変わるんですけど、それがバッテリーとモーターにさらに振り分けられる。まぁ多分、これはソフトウェアを作った人は分かっているわけですけど、我々から見たら『神のみぞ知る』、みたいな。最大でフロント150kW、リヤ100kWだけど、ン~どうなんだろ、最大で150kWくらいの出力ですね。

清水和夫×エクストレイルe-POWER
2列シート車のラゲッジスペースは575Lと、十分なスペースを確保

ただ、シリーズですから、ノートe-POWERのとき、フル加速するとエンジンがブーンっと回転が上がってやっぱり音がうるさくなるんですけど、そこは可変圧縮比と可変ターボ=バリアブルターボで出力をコントロールする。あ、発電の出力ですよ!

だからちょっと考え方が難しというか、より高度ですよね。

●どんなハイブリッド技術を使うかは、そのメーカーの考え方次第

ホンダは今、かなりシリーズ領域を長くして最後、高速でドカーン!っていくときには直接エンジンとタイヤが繋がる。そういったホンダのシリーズチックなハイブリッドもあれば、トヨタのシリーズパラレル、オーソドックスなTHSもある。

ただ、これから出てくるクラウンのハイブリッドは1モーターハイブリッド。これはエンジンにターボ付いていますから、ターボとモーターでハイブリッドを補う、1モーターを補うみたいな。また、ルノーのアルカナみたいなドグクラッチを使ったハイブリッドも出てきましたよね。

清水和夫×エクストレイルe-POWER
グレード「G e-POWER」のフロントシート
清水和夫×エクストレイルe-POWER
グレード「G e-POWER」のリヤシート

今、この世界はバッテリーEV、BEVにいく手前の領域では、様々なパワートレーンが出てきたので、非常に面白いと思っています。

エンジンの技術で言えば、ディーゼルエンジン並みの効率をガソリンエンジンで上げたいということで、可変圧縮比とか気筒停止とか、いろんなことをやっていますよね。

ただ、自動車メーカーがどの技術を選ぶかっていうのは、そのメーカーの考え方とか開発とか量産のコストとか、そういったところで決まってくると思います。

●シリーズハイブリッドのエンジンは、「発電してりゃいい!」だけじゃなくなった

清水和夫×エクストレイルe-POWER
スーッと走って気持ちいね

エクストレイルのサスペンション、悪くないね! ステアリングも軽めでスーッと走っているしね。

今、30km/h制限道路を30km/h一定で走っているので、ほとんど30psも要らないくらい。この時に必要な出力は、転がり抵抗と空気抵抗、重量くらい。

元々、たとえば100ある出力を落とすにはスロットルを閉じるんですけど、閉じるとポンピングロスで効率悪くなるから、出力を可変しながらあらゆる出力で高効率なエンジンを作るっていうのは、結構大変なんですね。

清水和夫×エクストレイルe-POWER
さまざまなハイブリッドが出てきて、非常に面白い!

最初、この可変圧縮比がシリーズに要るのか?と思ったんですけど、実は要るということが証明されたわけです。「シリーズのエンジンは発電だけしていろ!」なんだけど、その発電量も走行シーンに応じて可変しなければいけないわけですから、そこで圧縮比も変えて、ターボのブースト圧も変えて、というところですね。

●e-4ORCEはどうだ?

パワートレーンの話はそのくらいにしておいて、駆動系、フォースは「F」じゃなくて「4(フォー)」をモジって「e-4ORCE(イーフォース)」。なんかスターウォーズみたい!

清水和夫×エクストレイルe-POWER
タイヤはハンコック製、サイズは前後とも235/55R19 101V。ホイールは19インチアルミ(19×7.5J)、インセット:40、P.C.D:114.3(5穴)を履く

四駆なので前後でモーターを持っています。前後のトルク配分というのは低μ路とか雪道に行けばできるわけですけど、左右は内輪を少しVDC(ビークルダイナミクスコントロール)のブレーキでつまむことによって、見かけ上、内輪と外輪のトルク差で、クルマの走行性能を高めることもできるワケ。

一般道も凄くスムーズに走れますね。アクセルオフしたときの感じも自然ですね。ワンペダルスイッチを押すと…! おぉ~、0.2Gだね、このエンブレ、回生ブレーキで。これ、悪くないな。でも、一般道では回生が強すぎるとちょっと走りにくいので、普通モードでいきます。

清水和夫×エクストレイルe-POWER
ドライブモードセレクター

今、60km/h制限道路、ACC(アダクティブクルーズコントロール)で60km/hに設定しました。この状態では、圧縮比は高くして1.5Lのエンジンとして使っているんですけど、ターボはほとんど過給していないと思います。

圧縮比は一番高い14くらいの状態で、NAみたいな感じで走っています。出力が1.5L相当で圧縮比を上げていますから、効率は高いわけです。

ここからグーっと加速するときには、逆に圧縮比を下げて、ターボで過給して見かけ上の排気量を上げていく、っていうバージョンですね。

●20インチのオーテックバージョン、どうせならタイヤに合わせて足を固めたい!

今度はオーテックバージョン。

清水和夫×エクストレイル オーテック
AUTECH e-4ORCEのフロントビュー
清水和夫×エクストレイル オーテック
AUTECH e-4ORCEのリヤビュー

何が違うかっていうと、タイヤが19インチからミシュラン(MICHELIN PRIMACY4/255/45R20)の20インチになっていますね。でも、サスペンションは同じだから、大きな違いはないんでしょうけど、なかなか個性的なクルマに仕立て上げられています。

ノーマルバージョンのタイヤは、韓国のハンコック19インチ(235/55R19)。ただ、最近のハンコックは悪くないんですよね。BMWのM40とか、その辺のクルマにも今、ハンコックは積極的に使われています。

清水和夫×エクストレイル オーテック
オーテックバージョンは、MICHELIN PRIMACY4の255/45R20 101Vタイヤに、専用20インチアルミホイール(20×8J)、インセット:45、P.C.D:114.3(5穴)をセット

あ~確かに、ハンコックとミシュランを比べて、ちょっとコッチ(ミシュラン)はやっぱ固いかなと思うくらい、19インチのハンコックはしなやかでしたね。

でもコッチ(オーテック)は20インチなので、この辺のステアリングの締まったところなど、スポーティに走るんだったら、やっぱり20インチ・ミシュランのほうがいいかも。

清水和夫×エクストレイル オーテック
サスペンションが同じかぁ、20インチのミシュランに合わせてちょっと固めたいね

でもやっぱり、ミシュラン履くんだったら、サスペンションもちょっとイジりたいよね。

ウ~ン…でもね、個人的にはミシュランの20インチもいいんだけど、やっぱりスポンジ付きのタイヤにして欲しかったなって感じがします。


なかなかに複雑? 難しい? 新たな考えのシリーズハイブリッド「VC-TURBO」。すべての清水インプレッションは動画で!

(試乗・解説:清水 和夫/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの

【SPECIFICATIONS】

清水和夫×エクストレイルe-POWER
日産X-TRAIL G e-4ORCEの主なスペック

■日産X-TRAIL G e-4ORCE
全長×全幅×全高:4660×1840×1720mm
ホイールベース:2705mm
トレッド(前/後):1585/1590mm
車両重量:1880kg
最小回転半径:5.4m
乗車定員:5名
エンジン:KR15DDT/DOHC水冷直3ターボ
内径×行程:84.0×90.1mm
総排気量:1497cc
エンジン最高出力:106kW(144ps)/4400-5000rpm
エンジン最大トルク:250Nm(25.5kgm)/2400-4000rpm
燃料タンク容量:55L(無鉛レギュラー)
フロントモーター型式:BM46
フロントモーター最高出力:150kW(204ps)/4501-7422rpm
フロントモーター最大トルク:330Nm(33.7kgm)/0-3505rpm
リヤモーター型式:MM48
リヤモーター最高出力:100kW(136ps)/4897-9504rpm
リヤモーター最大トルク:195Nm(19.9kgm)/0-4897rpm
燃費 WLTCモード:18.4km/L
駆動方式:四輪駆動
サスペンション(フロント/リヤ):ストラット/マルチリンク
ブレーキ(フロント/リヤ共):ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(フロント/リヤ共):235/55R19 101V
車両本体価格(税込):3,799,400~3,930,300円(G e-4ORCE)

清水和夫×エクストレイル オーテック
X-TRAIL AUTECH e-4ORCEの主なスペック

■X-TRAIL AUTECH e-4ORCE(2列シート)
全長×全幅×全高:4675×1840×1715mm
トレッド(フロント/リヤ):1575/1580mm
車両重量:1860kg
タイヤ(フロント/リヤ共):255/45R20 101V(MICHELIN PRIMACY4)
車両本体価格(税込):4,467,100円~5,046,800円

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この記事の著者

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、スーパー耐久やGT選手権など国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。
自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。clicccarでは自身のYouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』でも公開している試乗インプレッションや書下ろしブログなどを執筆。
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