日産「可変圧縮比エンジン」を初公開。内燃機関の夢がついに実用化の段階へ【今日は何の日?9月29日】

■パリモーターショーで可変圧縮比エンジンを初披露

2016年(平成28年)9月29日、日産自動車はパリモーターショーにおいて、可変圧縮比技術を採用した2L直4ターボエンジン“VC-T(Variable Compression-Turbocharged)”を世界初公開しました。VC-Tは、リンク機構を利用して、運転条件に応じて圧縮比を8~12まで変化させることができる画期的なエンジンです。

日産が開発した可変圧縮比VC-Tエンジン
日産が開発した可変圧縮比VC-Tエンジン

●可変圧縮比エンジンのメリット

エンジンの圧縮比は、高いほど熱効率が向上し、基本的には燃費と出力が向上します。

しかし、ガソリンエンジンでは圧縮比を上げると、高負荷運転でノッキングが発生するので、通常はノックしない範囲でできるだけ高い圧縮比に設定します。一方で、一般路での走行のような部分負荷条件ではノックしにくいので、もっと高い圧縮比に設定するのが理想です。

すなわち、運転条件によって最適な圧縮比が異なるのです。

この課題を解決するのが、可変圧縮比です。特殊な可変圧縮比機構によって、低負荷~中負荷運転では圧縮比を高く、ノックが発生しやすい高負荷運転では圧縮比を低く設定することによって、燃費と出力の両立が実現できるのです。

●日産独自の複合リンク式によって可変圧縮比を実現

過去にいくつかのVCR(Variable Compression Ratio)機構が提案されましたが、機構の複雑さや耐久性の問題から自動車用エンジンとして量産、実用化された例はありません。

可変圧縮比エンジンの圧縮比設定イメージ
可変圧縮比エンジンの圧縮比設定イメージ

実用化された日産のVCR機構は、圧縮比の変更をピストンの上死点高さの変化で行います。上死点とは、上下運動するピストンの最上点のことで、圧縮行程中のピストンがより高い位置まで圧縮することで圧縮比は上昇します。

この機構を実現するのが、日産が独自に開発した複合リンク方式です。ピストンを支持し、クランクの回転運動をピストンの上下運動に変えるコンロッドの代わりに、3本のリンクをモーターによって巧妙に動かし、ピストンの上死点高さを連続的に変更。これにより、運転条件に応じた最適な圧縮比に設定できるVCRを実現しているのです。

一方で、複雑なリンク機構なのでフリクションが増える、耐久的に不利などの課題がありますが、日産は20年以上の歳月をかけてこれら課題を克服しました。

●ターボと組み合わせてインフィニティ「QX50」に搭載

日産のVCRは、2018年3月に北米向けインフィニティのクロスオーバーSUV「QX50」の2.0L直4 DOHCターボエンジンに初めて適用されました。ターボエンジンと組み合わせているので、日産ではこのVCR機構をVC-Tと呼んでいます。

2018年にデビューしたVC-T搭載の新型QX50
2018年にデビューしたVC-T搭載の新型QX50

ターボエンジンは、過給している分ノックしやすいため、NA(無過給エンジン)に比べて圧縮比を下げる必要があります。これが、ターボエンジンがNAエンジンより燃費が悪い事が多い理由のひとつですが、ターボエンジンにVCRを組み合わせることで、低負荷時の圧縮比を上げ、この弱点を克服する大きな効果が期待できます。

ノックしない一般路走行などの低~中負荷運転では燃費を良くするため圧縮比は上げて最大14に、ノックが発生しやすい高負荷運転ではノックが発生しないように圧縮比は下げて最低8とします。その間の領域の圧縮比は8~14の間をシームレスに変化させます。

すべての運転領域で最適な圧縮比に設定できるVCRのメリットを生かして、熱効率は40%を達成し、従来エンジンに比べて燃費が27%、出力が10%向上したと発表しています。


e-POWERにVC-Tエンジンを組み合わせた2022年デビューの新型エクストレイル
e-POWERにVC-Tエンジンを組み合わせた2022年デビューの新型エクストレイル

この夏発売された新型エクストレイルでは、e-POWERの発電用エンジンにVC-Tが採用されています。実は日本向けとしてはこれが初採用。最新エンジン技術と電動化の融合という形で可変圧縮比エンジンの活躍となったわけです。

毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれません。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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