愛妻家・眉村卓が、ガン闘病中の妻に「毎日捧げたもの、没後に送った言葉」 

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『なぞの転校生』『ねらわれた学園』などの作品で知られるSF作家の眉村卓さんが11月3日、誤嚥性肺炎のため85歳で亡くなった。

 眉村さんの最近の話題作といえばベストセラーとなった『妻に捧げる1778話』だろう。余命1年を宣告された奥様のためだけに、眉村さんは毎日1話ずつ短編小説を書くことを約束する。その闘病記と実際の短編とで構成された本だ。

 2004年の刊行時にも話題となり、映画化もされたのだが、一昨年、「アメトーーク!」で紹介されたことをきっかけに再び脚光を集めることとなった。カズレーザーさんが「15年ぶりに泣いた」と語り、さらにその場で本を開き、最終話を読んだ光浦靖子さんも涙する――という場面が多くの視聴者の興味を惹き、放送直後から売れ行きが急伸したのである。

 同書が多くの人の感動を誘ったのは言うまでもなく、1日1話という約束を守り続けた眉村さんの姿勢から、奥様への深い愛情が伝わってきたからだ。「何て素晴らしい夫婦愛だろう」「きっと奥様も喜んでいたに違いない」と誰しもが思う。

 しかし、眉村さん自身は、この“偉業”を決して自慢気に語ろうとはしていない。同書のあとがきには、この約束についての揺れ動く気持ちが率直に綴られている。

「1日1話にしても、実のところ妻には迷惑だったのではないか?

 1日1話のことのみならず、ひとつひとつ記憶がよみがえるたびに、あのとき、ああすればよかったのではないか、こうすればよかったのではないか、との悔いが出てきて、しかも、何が正解だったのか、いまだにわからないのである。そして今となっては、たしかめるすべもない。

 だが。

 私は癌になった当人ではなかった。

 その私が、妻の心境をいくら推察しようとしても、本当のところがわかるはずがないのだ。

 そして……私は思うのである。人と人がお互いに信じ合い、共に生きてゆくためには、何も相手の心の隅から隅まで知る必要はないのだ。生きる根幹、めざす方向が同じでありさえすれば、それでいいのである。私たちはそうだったのだ。それでいいのではないか。

 間もなく妻の三回忌だ。

 毎日短い話を書いたことについても、自分にはそれしかできなかったのだ、と現在の私は考えることにしている。

 そしてその5年間は、私たち夫婦にとっても、また私自身の物書きとしての生涯の中でも、画然とした一個の時期であり、ただの流れ行く年月ではなかったのである。

 妻へ――読んでくれて、ありがとう」

 ちなみに、ちょっとした偶然というべきか、眉村さんと同い年で同じ大阪生まれ、日本SF界を牽引してきた作家、筒井康隆氏も最新の著作(『老人の美学』)の中で、「美しい老後は伴侶との融和にあり」と、1章を割いて夫婦愛の大切さを説いている。

 とかく結婚生活が長くなると、相手のことを腐すことを一種の愛情表現と勘違いしているような人も珍しくない。しかし、傍で見ていてそれは本人が思っているほど格好のよいものではない。互いのパートナーにささいなことで不満を抱えているような人たちは、人生の大先輩たちの姿勢に学ぶのもいいのではないか。

デイリー新潮編集部

2019年11月21日掲載

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