健康のために飲んでいる「サプリメント」が“寿命を縮める”かもしれない

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 世界のサプリメント市場は右肩上がりに成長し続けている。

 健康維持や美容のためにサプリメントを日々摂取している人は多いだろう。

 効果を実感している人もいるだろうし、適切に使えば健康に良いこともあるのだろう。

 しかし、宣伝文句を丸ごと信じ込んで、安易にサプリメントを飲むのは避けたほうがよさそうだ。

「抗酸化物質は体に良い。だからサプリで飲めば健康になる」

 そんなふうに信じ込んでいる方は、以下の解説を読むと、少々ショックを受けるかもしれない。

「抗酸化サプリメントは寿命を縮める」――これはデンマークの若き分子生物学者、ニクラス・ブレンボー氏の著書『寿命ハック―死なない細胞、老いない身体―』の中にある見出しである。

 ニクラス氏は逆張りをしているわけではない。純粋に科学的な実験をもとに検討した場合、このような結論に至るのだ、という。

 生物のメカニズムとは複雑で、一見体に良さそうなことが体に悪いこともあれば、体に悪そうなことが良いこともある。そんなことがさまざまな実験から明らかになっているのだ。

 同書をもとに見てみよう(以下、引用はすべて『寿命ハック』より)。

 ***

抗酸化サプリメントに意味はあるのか

 そもそも「抗酸化」とはどういうことで、なぜそれが体に良いという話になっているのか。

 このことを考えるうえで、前提として知っておくべき言葉が「フリーラジカル」だ。

 1950年代、最初の原子爆弾が日本に投下されて数年後、科学者たちは放射線が人体に及ぼす影響に関心を寄せていた。

 マウスを用いた実験を重ねた結果、高レベルの放射線をマウスに浴びせると、致命的ではないものの老化が加速することがわかった。放射線を浴びたマウスは加齢性疾患を通常より早く発症し、死期も早まったのだ。

 放射線がマウスにとって害になるのは、一つにはそれが細胞の中で「フリーラジカル」と呼ばれるものを作り出すからだ。フリーラジカルは非常に反応しやすい分子で、他の分子に衝突すると、その分子を傷つける。

 ニクラス氏は、フリーラジカルとは、例えるならば「陶器店にいる雄牛のようなものだ」と言う。

「どの動物も放射線にさらされると細胞内でこの雄牛が暴れまわる。科学者は雄牛がもたらす被害の総量を『酸化ストレス』と呼ぶ。つまり、放射線を浴びたマウスは『酸化ストレスが高い』のだ」

 この「酸化ストレス」に対抗する物質が「抗酸化物質」である。

「抗酸化物質は陶器店の雄牛に打ち込む鎮静剤と見なすことができる。放射線の研究者たちは抗酸化物質を使えば、マウスを放射線の害から守ることができるのではないかと考えた。実験の結果、抗酸化物質は放射線を浴びた動物の寿命を延ばすという結論に至った。

 もっとも、興味深いことに、フリーラジカルが生まれるのは放射線を浴びた細胞の中だけではない。実のところそれは正常な代謝の副産物であり、わたしたちの細胞は常に暴れまわる雄牛に翻弄されているのだ。それを知る科学者たちはこう考えた――フリーラジカルは放射線に誘発された老化の原因であるだけでなく、通常の老化の原因にもなっているのではないだろうか」

 この説は「老化のフリーラジカル説」と呼ばれる。つまり、人間は代謝によって生きている一方で、代謝はフリーラジカルを発生させるという性質もある。だから人間は確実に老化し、死んでいくという説である。

 そうなると、誰もが「フリーラジカルを抑え込めば老化を遅らせることができるはずでは」と考えるだろう。科学者たちもそう考えた。

「抗酸化物質を使って、暴れ牛をおとなしくさせればよいのだ。

 このアイデアは、誕生して以来、臨床試験で徹底的に調べられてきた。

 実際、数多くの研究が行われてきたので、今ではメタ分析を行うことができる。メタ分析とは、別々に行われたいくつもの研究のデータを統合して分析する大規模な研究のことだ。

 研究者たちは68件の研究と23万人の被験者からなるメタ分析を行い、抗酸化物質のサプリメントが人間の寿命を延ばすかどうかを調べた。

 結論はこうだ。

 抗酸化作用のあるサプリメントを摂取する人は早く死ぬ。加齢性疾患を予防することもできない。抗酸化作用のあるサプリメントは、ある種のガンの発生を抑制するどころか、その増殖と転移を促進するらしい」

 ここで頭が混乱する方もいらっしゃるに違いない。「抗酸化物質」で暴れ牛ことフリーラジカルを抑え込むのは体に良いはずだったじゃないか。それなのに「早く死ぬ」「加齢性疾患を予防することもできない」、「ガンの増殖と転移を促進する」とは、一体どうなっているのか?

なぜ抗酸化サプリメントは寿命を縮めるのか?

 この疑問への解答を知っていただくために、少し遠回りして、次の風変わりな実験をご紹介しよう。

 1991年秋、8人の科学者がアリゾナ州オラクルにある巨大で未来的な温室に閉じこもった。彼らは2年にわたってバイオスフィア2と呼ばれる温室をメインとする建物群の中で過ごすことになっていた。任務は食料、水、酸素、その他、生活に必要なものを自給自足することだ。

 この壮大な実験の目的は、ゼロから完全な生態系を作り出せるかどうかを調べることだった。

 地球の生態系において最も重要な要素の一つは樹木だ。酸素を供給してくれるだけでなく、無数の生物のすみかであり、建築資材にもなる。そのため科学者たちは、木を新たな生態系の柱と見なし、バイオスフィア2の中に多くの木を植えた。

 巨大な温室という恵まれた環境に植えられた木は急速に成長した。

 ところが……。

「実験が終わらないうちに、その多くは枯れてしまった。何が足りなかったのだろう。世話や栄養が足りなかったわけではない。むしろ、その逆だった。欠けていたのは、ストレスだったのだ。具体的には風というストレスだ。

 風は木にとって手ごわい敵の一つだが、実のところ、必要不可欠なものでもある。絶え間なく吹く風に耐えることで木はたくましく強く育っていく。風がない場所では木は弱くなり、やがて自らの重さを支えられなくなって倒れる」

 この実験結果が、フリーラジカルと抗酸化物質の話とどう関係するのか。

「抗酸化作用のあるサプリメントを取る人はなぜ早く死ぬのだろうか。その理由は、風が吹かないと木が枯れる理由と同じだ。つまり、ストレスが生物を強くしているのだ。

 逆境が生物を強くするこの現象は『ホルミシス』と呼ばれる。人間の場合、最も身近な例は運動だ。走ることは健康に良いと誰もが思っているかもしれない。

 しかし、走っている間に何が起きているかを考えてみよう。心拍数や血圧が急上昇する。一歩走るごとに筋肉と骨は負荷を受けて緊張する。また、運動にはエネルギーが必要なので、代謝が一気に上がり、フリーラジカルが多く生成される。

 そう、運動すると体は有害な分子を生成するのだ。しかし長い目で見れば、運動は人をより健康にする。なぜなら、それらの負荷があなたはもっと強くなる必要があるというメッセージとして働くからだ」

ヒ素で長生きした虫

 こうしたことを私たちは経験則で知っている。

 「温室育ちは弱い」ということだ。

 科学者たちはホルミシスという現象を調べるために、さまざまな実験を行ってきた。ニクラス氏が紹介しているのは、毒物を用いた実験だ。

 ヒ素は通常、人体に有害であることで知られており、「毒物の王」などと呼ばれることもある化学物質である。

 もちろん人間のみならず、他の動物にも有害なのは言うまでもない。ある実験では、線虫にヒ素を大量に投与した。当然、線虫は死ぬ。

「しかし少量の場合、線虫は通常より長生きした。それだけでなく、熱ストレスや他の毒物への耐性も強くなった。なぜだろう。もちろん、ホルミシスのおかげだ。

 ヒ素は毒だが、少量なら適度なストレス要因になって線虫の防衛能力を高めるのだ」

 こうしたホルミシスに関する報告は他にもあり、同書でいくつも紹介されている。

「アメリカの造船所の労働者のうち、原子力潜水艦に携わる労働者は一般的な労働者より死亡率が低い」「アメリカの一般市民のうち、自然発生する放射線量が通常より多い地域に住む人々は平均寿命より長く生きる」等々。

 もちろん、ニクラス氏はだからといって「放射線健康法」「ヒ素健康法」を推奨しているわけでは決してない。

「そんなことをしたら、良い遺伝子を台無しにしてしまう。どのくらいのレベルならホルミシスになるかは不明だが、そのレベルを超えるとどうなるかはわかっている。苦痛と恐ろしい死である。ホルミシスは量が肝心なのだ。ジョギングをして体に負荷をかけるのは、運動をまったくしないより健康的だ。だが、運動をしすぎることもあり、これは「オーバートレーニング」と呼ばれる。同様に、木は風に吹かれて強くなるが、風が強すぎると倒れたり、折れたりする。ストレス要因から恩恵を得られるのは、もたらすダメージが自己修復能力の限度を超えない場合に限られる。

 また、有害なものやストレス要因のすべてにホルミシス効果があるわけではないことも忘れてはならない。頭を壁にぶつけても賢くはならないし、タバコを吸って肺機能を高めることもできない。人間にとってプラスになるストレス要因は、人間が耐えられるよう進化してきたものだけだ」

「時間がない」人のための運動法

 プラスのストレス要因の一つが運動なのは間違いない。ランニング、水泳、ハイキングなどの定常運動(同じ動きを繰り返す運動)の習慣が体に良いのは定説となっている。

 一方で、これら長時間の運動は敬遠されがちだ。何せ現代人には時間がない。

 そこでニクラス氏はこんなアドバイスを送っている。

「解決策になり得るのはインターバルトレーニングだ。『高強度インターバルトレーニング(HIIT)』とも呼ばれる。

 HIITでは、短時間の激しい運動と休息を交互に繰り返す。例えば、20秒の全力疾走、20秒の休息、20秒の全力疾走、という繰り返しを5~10分続ける。目的は運動強度を定常運動より高めることだ。これは効果が期待できる。なぜなら、ホルミシスは強い急性のストレスを受けた場合に最もよく働くからだ。

 HIITの支持者らは、HIITは定常運動と同じくらい有益だと考えており、裏付ける研究結果も多い。とりわけ、ある大規模なメタ分析では、HIITが定常運動よりも炎症や酸化ストレスを軽減し、同時にインスリン感受性を高めることがわかった。また、別の研究では、HIITは適度な定常運動より約25パーセント多く体重を減らすことが示された。

 フィットネスの最善の方法は定常運動とHIITの両方を行うことだろう。ジョギングする人は、いつも通りにジョギングをしながら時々全力疾走を挟むとよい。しかし、重要なポイントは、完璧を求めすぎないことだ。複数の研究によると、どのような運動でも何もしないよりはましで、最も望ましいのは運動を習慣化することだ。好きな運動を選べば、続けるのは容易だろう」

 そんなの面倒だから、何とかサプリを飲むだけで解決したい――というのはやめたほうがいいのはここまでに解説してきた通りである。

『寿命ハック―死なない細胞、老いない身体―』より一部抜粋・再構成。

デイリー新潮編集部

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