「病気になりたくない」というのは、すべての人に共通する願いです。しかし、病気にならないためにどんな行動をとるべきなのかは「よくわからない…」という方が多いのではないでしょうか。
そんななか、「科学的に正しい」健康習慣の身につけ方を明かした、公衆衛生学者・林英恵さんの最新刊『健康になる技術 大全』が話題を呼んでいます。最先端のエビデンスをベースにした「健康に長生きする方法」を伝授する本書に、読者からは「健康関連本としてはブッチギリのベスト」「一家に1冊置いておくべき」と激推しの声が続々と届いています。
本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、「飲酒の習慣」の有無が人の体に与える影響を解説します。
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)
*書籍『健康になる技術 大全』の「食事の章」はケンブリッジ大学疫学ユニット上級研究員 今村文昭博士による監修

「飲酒の習慣がある人、ない人」。病気のリスクに表れる決定的な違いPhoto:Adobe Stock

摂取すればするほど体に悪影響を与えるもの

 食品と健康の関係には、摂取すれば摂取するだけ不健康になる、あるいは健康になると考えられるものと(直線型)、J字型カーブといわれるような、少し摂取すると健康に良さそうな傾向を示すような、いくつかのタイプがあります(図表15)。

 直線型の食品は、例えば加糖飲料水(砂糖やシロップが加えられた、いわゆる一般的な「ジュース」)と糖尿病、加工肉と様々な疾患との関係などです。その食品を多くとると疾患や死亡率のリスクが上がる傾向が強くなります。概して、エビデンスが強いものは、食品とリスクの関係が直線型を示す傾向があります。

アルコールと疾患の関係

 先進国の中年男女を対象にした研究によると、アルコールと疾患の関係は、死亡や心筋梗塞や脳卒中を含む循環器疾患のリスクに関しては、主にJカーブです(*1-3)。日本人を含んだ研究でも、適量飲む場合は、死亡率が少しだけ低いことがわかっています(*2,4-6)。

 Jカーブというのは、文字通り、その食品と結果の関係がアルファベットの「J」のような形になっているものです。つまり、全く摂取しないよりも、少し摂取している人の方が死亡や疾患のリスクが低いのです。Jの一番下がっている弓なりの部分のリスクが低いことを意味します。

 こうした成果が多くの国々から報告されているために、従来から「適量であれば体に良い」といわれるようになったようです。

 注意しなければならないのは、Jカーブの関係があるからといって、少しの飲酒が体に良いということを示しているわけではない、そしてすべての疾患に当てはまるわけではないということです。実際、厚生労働省は高血圧、脳出血、乳がんなどとアルコールの関係は直線型と発表しています(*7-16)。

生活習慣病のリスクが上がる摂取量

 また、こうした研究成果の解釈には注意が必要です。この「Jカーブ」の理由が、研究による限界である可能性も否定できません。つまり、全くお酒を飲まない人の死亡率が高くなるのは、もともとなんらか健康上の理由があって飲めない可能性があります。そして、もともと病気を抱えているためにそのグループで死亡率が高くなるということが起こりえます(*17,18)。

 このような背景があるため、お酒が飲めない人や、今飲んでいない人は、無理に飲む必要はないといわれています(*19)。「お酒は体に良い」という表現は、今のところ、限定的な意味しか持たないのです。

 厚生労働省では、「生活習慣病のリスクを高める量の飲酒」として、1日平均純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上と定義しています。純アルコール量20gとは、だいたい「ビール中ビン1本(500ml)」「日本酒1合(180ml)」「チュウハイ(7%)350ml缶1本」「ウィスキーダブル1杯(60ml)」などに相当する量です(*20)。

 ただ、誰でもこの「適量」まで飲んで良いとはいえません。また、厚生労働省の定義同様に、女性は男性よりも少し少なめに設定するのが妥当という提言もあります(*20)。性差はもちろん男性、女性それぞれでも体質による個人差があり、「適量」の判断を難しくしています(*21-23)。またこの適量が当てはまるのは、健康上の理由がない人のみですので気をつけましょう。

(本稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』より一部を抜粋・編集したものです)