テレビが日本にできて今年で60周年、ジャニーズが誕生して今年で51周年。
そう思うとジャニーズの存在ってすごい、という気が改めてしてきませんか。

「ジャニーズ」と聞いただけで、SMAPや嵐などの人気タレントを輩出し続ける芸能事務所とわかる人も多いでしょう。

念のため説明すると、ギネス世界記録保持者(「最も多くの音楽チャート1位獲得アーティストを生み出した人物」、「最も多くのコンサートをプロデュースした人物」、「最も多くのNo.1シングルをプロデュースした人物」の3つの記録!)でもあるジャニー喜多川が創設した、男子のアイドルだけをマネージメントする芸能事務所が「ジャニーズ事務所」、略してジャニーズです。
そこから誕生し、活躍する男子グループ(基本的にグループ活動ですが、時々、生田斗真、風間俊介などのソロ活動者が誕生する)の人気の絶大さは、SMAP、嵐などの活躍ぶりからもわかります。

男子アイドルの牙城・ジャニーズのすごさの一端が、その歩みと共にわかる本「ジャニ研! ジャニーズ文化論」が、ジャニーズ誕生50周年節目に当たった12年の暮れに出版されました。

ジャニーズ研究本のたぐいは、これまでもたくさん出版されていますが、これは今までにない書籍です。なんといっても、ジャニーズ(最初のアイドルの名前はまんまジャニーズだった)からA.B.C−Zまで、この50年間、ジャニーズ事務所が次々と世に送り出してきたグループのために用意された、楽曲や作品などのコンテンツ群が細かく記されているのです。
しかも、それらが実に秀逸であることが論じられています。

ジャニーズというと、どうしても個々のスター性に話題がいきがちですが、この本では、彼らの楽曲やステージ演出の良質さとそれを打ち出す戦略の確かさを、大谷能生、速水健朗、矢野利裕の男性3名が情熱を燃やしつつも、冷静さを失うことのない知性ある視点で饒舌に語っています。302ページ、2段組みでびっしり!

ジャニーズとジャニー喜多川の説明よりも、このジャニーズを愛する3人は誰なの? という説明をしますと、帯にはSMAP、嵐世代と紹介してあります。
プロフィールには、大谷は中居正広、木村拓哉と同じ年生まれの批評家で音楽家。著書に「貧しい音楽」「持ってゆくうた、置いてゆくうた」などがあります。
速水は稲垣吾郎と同じ年生まれのライターで、著書の「ラーメンと愛国」などが話題の人物です。

矢野は二宮和也、松本潤と同じ年生まれで、ライターのほか、国語教師やDJなどもやっている多彩な人物で、共著に「村上春樹と1990年代」があります。

著書の3人は、音楽やラーメンや村上春樹などをテーマに日本の文化を見つめてきた、知る人ぞ知る気鋭の論客。
彼らがジャニーズの活動を、デビュー曲、コンサート、ミュージカルなどと細分化しながら、ジャニーズの50年に渡る歴史を深く鋭く考察します。そして、多種多様なジャニーズアイドルたちの中に時代を超えて宿り続ける、ひとつの文化となり得る核の存在を見つけ出す、という偉業が「ジャニ研! ジャニーズ文化論」です。

ここでは労作全6章の内容をちょっとずつご紹介しましょう。

第1章 ジャニーズとデビュー
1964年12月にデビューしたジャニーズの「若い涙」から2012年2月デビューのA.B.C−Z「ZaABC〜5stars〜」までデビュー曲をすべて研究。
音楽に関する著書を出版したり、DJをやっている論者たちが丁寧に説明してくれて、資料価値が高いです。
注目は、添えられているイラスト。写真が使えないのでジャケ写がイラストなのですが、ヘタウマなのか、ただヘタなのかわからない脱力加減が逆に目を引きます。

第2章 ジャニーズとコンサート
シブがき隊解散以降のDVD化された映像から、時代をふまえつつ丁寧に読み解いています。応援グッズである大きなうちわのルーツから、メンバー紹介のラップに見るヒッピホップ文化の影響まで幅広く言及。
ジャニーズのアウラのありかが、録音物ではなくライブにあるとした著者たちは、AKB48の高校野球に近いアマチュアリズムとジャニーズのプロフェッショナリズムとしてのショービジネスを比較します。
ふむふむ・・・このあたりは読みながら、熱が上がってきますよ〜。

第3章 ジャニーズとディスコ
この本のユニークなところのひとつで、ジャニーズの楽曲はディスコ音楽と密接な関係があるという話を、1章使って書いています。
ディスコ=ダンス。ふんふん、ジャニーズの楽曲って振りも魅力的だもんねー、というカンタンな話ではなくて、ディスコにはこんな社会的意味があったんだー!と驚きの連続です。ジャニーズ研究本を読んでたら、頭が少し良くなっちゃったっていう効能ありです。
著者が選ぶジャニーズディスコ5曲もありますよ。


第4章 ジャニーズとタイアップ
コカ・コーラ、チョコレート、宅急便、車、ケータイなどのCMから、バレーボールや、ドラマ「金田一少年の事件簿」まで、ジャニーズが関わった、ありとあらゆるタイアップ企画がチェックし尽くされます。
この章も興味深くて、時代の流れの中で、ジャニーズがどういった商品と組んでいったのかを知ることで、その時代が象徴するものが見えてきます。
時代、時代に登場してくるジャニーズのアイドルたちこそ、時代そのものであるということもわかってくるんですね。やっぱり、すごいぞジャニーズ!と思わされます。
SMAPが国民的アイドルとして君臨する理由も説かれています。

第5章 ジャニーズとミュージカル
ショービジネスとしてのジャニーズを語る上で欠かせない大切な要素が、ミュージカルです。
この章では、ジャニー喜多川のミュージカルへの強い思いを考察してきます。
そもそもジャニー氏は、少年野球チームのコーチをやっていたのですが(ジャニーズの球場コンサートって野球の名残なんですかね?)、「ウエスト・サイド物語」の映画を見てミュージカルをやろうと決意したエピソードから、宝塚の影響にも触れてあります。
できたらもう少し舞台に対するジャニーズ個々(東山紀之、堂本光一や松本潤など)のモチベーションや、ジャニーズ主宰以外の舞台出演による武者修行っぷりなども掘り下げてほしいところですが、この本は個人の資質や志向、努力よりも、大きな視点からジャニーズの偉業を語る有意義な本ですので我慢しましょう(何様目線?)。
劇場と街の活性化との関係に、宝塚やジャニーズ演劇もなくてはならない存在であることも指摘されて、視点がグーッと俯瞰的なものになっていく驚きは、12ヶ月を1ヶ月ずつ見つめていくミュージカル「ジャニーズ・ワールド」的とも言えるのではないでしょうか?

第6章 ジャニーズは今
これからのジャニーズについて、思いを馳せて、ジャニーズの歴史を巡る旅は終わります。

この本を読んでいると、ジャニーズは、歌舞伎や宝塚のように日本になくてはならない伝統文化のひとつなんだと思わされます。
ジャニーズたちは、時代を映し出すアイドルとして活躍しながら、創立時からの伝統も継承しているのです
彼らが守る伝統とは何なのか、ぜひ「ジャニ研! ジャニーズ文化論」を読んで、その奥深さを感じてみてください。(木俣冬)