綾子「違うでしょ。毎日コーヒー淹れたいんでしょ」
「はあ?」
綾子「お母さんのためとか関係ないの。
あなたが淹れたいから淹れてるだけなのよ」
「急に哲学の話。コーヒーを淹れるために生きているのか、生きるためにコーヒーを淹れているのか」

10月19日(土)放送の土曜ドラマ 『俺の話は長い』(日本テレビ系)第2話。およそ30分×2本立ての構成になっている本作。今回は「其の三 焼きそばと海」「其の四 コーヒーと台所」の2本だった。

「其の三 焼きそばと海」では、主人公・(生田斗真)の姪・ 春海(清原果耶)が再び学校に行きたくないと言い出した。姉の 綾子(小池栄子)から春海を説得して学校に行かせるよう頼まれた満は、春海に声をかける。


「其の四 コーヒーと台所」では、定職に就かない満を綾子が責める。自分で始めて潰してしまったコーヒー屋に未練があるのではないかと綾子は言うが、満は否定。母親・ 房枝(原田美枝子)に毎朝コーヒーを淹れていることまで強く否定され、満は「もう淹れない」と言ってしまう。
生田斗真「俺の話は長い」「大抵のことは傷ついて覚えるしかない」高さの合わない台所が教えてくれる2話
イラスト/たけだあや

背の高さに合わない台所


朝5時半。背の低い房枝にちょうど良いであろう高さの台所、テーブルで、背の高い満がコーヒーを淹れている。お湯を沸かし、豆をひいて、息を飲むほど真剣に湯を注ぎ入れ、あらかじめ湯で温めていたカップにコーヒーを注ぐ。台所とテーブルの高さに合わせて、満は脚を大きく広げたりしていた。


房枝は、2年前に亡くなった夫の喫茶店「ポラリス」を継いで営んでいる。家の台所と違って、ポラリスは房枝にちょうど良く作られていない。カウンターは房枝には少しだけ高いように見える。そこで、房枝は常連客たちに愛されている。

定職に就かない満と、それを許容している房枝との関係に苛立っているのは、姉の綾子だ。

「姉ちゃんさ、男の人にコーヒー淹れてもらったことないでしょ」
綾子「関係ないでしょ」
「だからわかんないんだよ。
毎朝おいしいコーヒーを淹れてもらうことがどれだけ幸せなことか、経験がないから」
綾子「コーヒーを淹れてもらうことと息子が定職に就くこと、どっちかお母さんにとって幸せかわかるでしょう」
「男の人にコーヒー淹れてもらったことないくせに、どっちが幸せかなんてどうやって判断するの」

綾子が責めるたびに、満は得意の屁理屈で対抗する。綾子の剣幕には、春海や夫の光司(安田顕)も引いてしまうほど。見ていると「そこまで言わなくても」とさえ感じてしまう。綾子が強く言い過ぎたために、強情っぱりの満は毎朝コーヒーを淹れる日課をやめ、手元に残していたコーヒー関連のものを売りに出してしまうことになった。

満と房枝がそれぞれ高さの合わない台所と喫茶店にいることは、いまの状況の据わりの悪さと似ている。自分に合った高さの場所に行くことが良いことか、据わりの悪さを愛することが良いことか、満も房枝も決めかねている。


海星「綾子さんと真逆の意見になっちゃうんですけど、ここまで来たら、焦らないほうが良いと思いますけどね」

満と光司が通う「Ber クラッチ」のバーテンダー・海星(杉野遥亮)はこう言う。でも、意地になった不器用な満は、コーヒーの道具や本を売ってしまうのだった。

傷ついている満を憎めない


前回の「其の一 すき焼きと自転車」「其の二 寿司と段ボール」と同じく、今回も前半パートは春海、後半は満にスポットが当たっていた。春海のパートでは、どうして春海が学校に行きたくなくなってしまったかが明かされた。

房枝は、春海と同い年のこどもがいるポラリスの常連客・諸角(浜谷健司/ハマカーン)から、春海の噂を聞いてしまう。片思いしていた同級生と春海の親友が、交際しはじめてしまったからではないか、とのこと。
房枝はすぐにそれを満、綾子、光司に伝えてしまう。

好意を向けていた相手と、それを相談していた親友。ふたりに会わなければいけない学校は、春海にとっては居心地の悪い場所になっていた。家には血のつながらない光司がいて、期間限定とはいえ慣れない祖母の家で暮らして。まだ中学3年生の春海もまた据わりの悪さを感じている。

「どうしても出たくない授業に出てはじめて、ふっきれたって言えんじゃないの? 学校の奴らに、引きずってないってこと証明できるんじゃないの? せっかく通い始めたのに今日休んだら、うわーまだ引きずってんだって思われんだろ。
明日からまた通い始めても、憐れんだ目で見られんだよ? 俺だったらその視線に耐えらんないね」
春海「もうちょっとちょうだい」
「(焼きそばを)好きなだけ取っていいよ」
春海「いや、もうちょっと良いこと言って」
「は?」
春海「もうひと押しで行ける気がする」
「どんだけ上から目線だよ」

春海はその居心地の悪い場所に、自分から踏み込んでいくことを選んだ。「なんで昔の人は失恋すると海に行くの?」という春海を、満は海までドライブに連れて行く。

春海「やっぱ先に動かないとダメなんだね。こんなに後悔すると思わなかった。どうして人生の大事なことに限って、誰も教えてくれないんだろう」
「たまに教えてくれる人もいるんだけど、聞いてるときはそんな大事なことって気づかないもんでさ。たいていのことは傷ついて覚えるしかないんだよ」
春海「そんなのつらすぎる」
「若いうちだけだ」
春海「だといいんだけど」

満は屁理屈ばかりで可愛げがなく、世間一般的にはニートのダメ男。でも、満を憎めない。それは、人生を諦めているのではなく、何かに傷ついてのたうち回っている状態であることが、こうした台詞やコーヒーの淹れ方などから垣間見えるからだ。

ところで、房枝はポラリスに春海の片思いの相手・(水沢林太郎)が来たとき「春海さんには僕が来たこと内緒にしておいてもらえませんか」と言われ、次の瞬間には春海に言ってしまっていた。春海の噂も、房枝はすぐにみんなに伝えてしまっていた。それなのに、口の軽さが怒られるべき欠点ではなくチャーミングさに見える。

普段は怒り散らかしている綾子の「ごめんよお……」という謝り方。年下であろう満の良いところを見出して尊敬する光司。ニートの満だけでなく、みんなどこかがダメで、どこかがチャーミングだ。台詞と演技の積み重ねが、表裏一体になっているダメさとチャーミングさを浮き立たせていく。
(むらたえりか)

=配信サイト=
hulu:https://www.hulu.jp/orebana
日テレ無料!(TADA):https://cu.ntv.co.jp/orebana_01-01/

=番組情報=
土曜ドラマ 『俺の話は長い』(日本テレビ系)
毎週土曜日よる10時〜
出演:生田斗真、安田顕、小池栄子、清原果耶、杉野遥亮、水沢林太郎、浜谷健司(ハマカーン)、本多力、きなり、西村まさ彦、原田美枝子、ほか
脚本:金子茂樹
音楽:得田真裕
主題歌:関ジャニ∞「友よ」(インフィニティ・レコーズ)
コーヒー指導・監修:篠崎好治
動物指導:ZOO動物プロ
国語指導:藤本裕子
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
演出:中島悟 ほか
制作協力:オフィスクレッシェンド
製作著作:日本テレビ
番組公式サイト:https://www.ntv.co.jp/orebana/