新型コロナウイルスの全国の感染者数は2674人(25日時点)。確かに減少傾向にある。今回の第5波で、私たちが目の当たりにしたのは、増え続ける「自宅困難者」と、困難を極めた「救急搬送困難事例」だった。冬場に懸念される第6波を防ぐことはできるのか。救急搬送の現場を振り返ってみた。

記者が、千葉県・船橋市消防局を取材したのは9月6日。医療提供体制の逼迫、救急搬送体制の混乱は現在進行形だった。

船橋消防局では、8月、コロナ搬送事案が200件を超えた。
船橋消防局では、8月、コロナ搬送事案が200件を超えた。
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船橋市消防局では、6月まではコロナ患者の救急要請が月に20~30件だった。それが7月に100件を超え、8月には200件を超えた。平常時は15隊で稼働している救急隊に、消防隊や転院搬送用の救急隊2隊を追加した計17隊で、コロナ禍の救急に対応していた。救急隊員にとっては、常に現場に向かっているような日々が続いていた。

救急隊の出動状態を示すモニターは赤いランプが点いたままだった。
救急隊の出動状態を示すモニターは赤いランプが点いたままだった。

この日も、救急隊の出動状態を示すモニターには「出動中」の赤いランプが点いたまま、消えない状態だった。隊員は、いったん出動すると消防署に戻ることなく、出動要請が続く。朝出動した救急隊が夕方まで”出ずっぱり”のことも珍しくないという。

取材中にも、搬送を終えた隊員が消防署に戻ってきたが、その後5分ほどで新たな要請が入り、駆け足で出動した。隊員は食事はおろかトイレにも行けないほどの逼迫状況だ。

救急隊員は、朝から夕方まで、現場に”出ずっぱり”のことも珍しくないという。
救急隊員は、朝から夕方まで、現場に”出ずっぱり”のことも珍しくないという。

千葉県では8月25日に自宅療養者が過去最多の1万849人となり、9月5日まで1万人を超える状態が続いた。自宅療養者やその家族からの119番通報も多いという。

船橋市消防局には、自宅療養者や家族からの119番通報も多い。
船橋市消防局には、自宅療養者や家族からの119番通報も多い。

指令員:具合が悪い方はどなたですか?
要請者:主人です。
指令員:今はどういう症状がありますか?
要請者:血中酸素濃度がもう測れない状態でブルブル震えていて。
指令員:震えがあるのね。
要請者:測れたときが92%とか93%とかで。
指令員:熱はありますか?
要請者:熱はあります40度近く
指令員:意識はまだある?
要請者:意識はギリあります。

コロナ患者の受け入れ先が決まらず、搬送までに7時間半近くを要したケースも。
コロナ患者の受け入れ先が決まらず、搬送までに7時間半近くを要したケースも。

この日、自宅療養中に容態が急変した40代の男性は、中等症で要請からおよそ1時間半後に病院に搬送された。しかし、なかなか受け入れ先の医療機関がが決まらない「救急搬送困難事例」も増加。中には搬送までに40件以上”たらい回し”となり、搬送までに7時間半近くを要したケースもあった。

千葉県では、自宅療養中の妊婦が自宅で出産、赤ちゃんが死亡する事態が起きた(8月 千葉県の記者会見)
千葉県では、自宅療養中の妊婦が自宅で出産、赤ちゃんが死亡する事態が起きた(8月 千葉県の記者会見)

千葉県では、8月、自宅療養中だった妊婦が、入院先が見つからないまま自宅で早産し、生まれた赤ちゃんが亡くなる事態が起きた。この悲劇を繰り返してはいけないという思いは、救急現場に携わる人みんなが強く持っている。

取材日に話を聞いた圓城寺善克・救急課長補佐は「医療機関、保健所、消防署、全てが逼迫しているような状態だ。状況を改善するためには、一人ひとりが陽性にならないように気を付けてコロナの患者を減らして行くことが改善につながる。これしかない」と訴えた。

圓城寺・救急課長補佐は「一人ひとりが陽性にならないよう気をつけること」と訴えた
圓城寺・救急課長補佐は「一人ひとりが陽性にならないよう気をつけること」と訴えた

当たり前のことだが、感染者が増えなければ、医療提供体制も、救急搬送現場も、危機に瀕することはない。「一人ひとりが陽性にならないよう気をつける」。第5波まで経験してきた私たちが、緊急事態宣言が解除された後も、この”当たり前のこと”を忘れずにいられるだろうか・・・。

(フジテレビ社会部・コロナ取材班 風巻隼郎) 

風巻隼郎
風巻隼郎

1996年新潟県出身。
社会部で、司法クラブ検察担当、コロナ取材班、千葉県警を担当。
現在は、警視庁捜査二課・暴対課を担当。