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オレンジと紫のリボンが重なり合った、こちらの写真のリボンをご存知だろうか。児童虐待防止を啓発する「オレンジリボン」と、女性への暴力根絶の啓発を図る「パープルリボン」を重ね合わせた「Wリボン」だ。

政府では、11月1日の閣議で、「児童虐待防止月間」(11月)と「女性に対する暴力をなくす運動」(11月12~25日)にあたり、全閣僚が「Wリボン」を着用して周知を図った。

11月1日の閣議
11月1日の閣議

加えて、男女共同参画を担当する橋本聖子大臣は、「ミス・インターナショナル世界大会」に参加する各国のミスに「Wリボン」を贈呈し、アピールに協力してもらった。

11月13日 ミス・インターナショナル世界大会上位入賞者の表敬
11月13日 ミス・インターナショナル世界大会上位入賞者の表敬

なぜ今、「Wリボン」か。背景には、「DV(ドメスティック・バイオレンス=配偶者やパートナー間の暴力)」と「児童虐待」のリンクが近頃、注目されていることが挙げられる。

虐待を止められない場合も DVと児童虐待の関係

東京・目黒区で、両親から虐待を受けていた5歳の女の子、船戸結愛ちゃんが死亡した事件が記憶に新しいと思うが、この目黒区の事件でも妻が夫からDVを受けている中での“虐待死”だった。

亡くなった船戸結愛ちゃん
亡くなった船戸結愛ちゃん

内閣府の男女共同参画局によると「DVが起きている家庭では、子供に対する暴力が同時に行われている場合がある」のだという。これはどういうことか。いくつかの類型を紹介したい。(父→母のDVを例示しているが、当然ながら母→父や同性のパートナー間でもDVはあり得る)

① 子がDV加害者から直接暴力を受ける
→母と子が同時に暴力を受けている場合、母は加害者への恐怖心ゆえに、子への暴力を止められなくなる
② 子の前で暴力をふるう(「面前DV」)
→子の見ている前において夫婦間で暴力をふるうことは、子への心理的虐待にあたる。
③ 子がDV被害者から虐待を受ける
→母が継続してDV被害を受けていると感情がなくなり、「夫に従わないといけない」と言われるがままに子を虐待してしまう
④ 子が加害者とDV被害者双方から虐待を受ける
→③同様に、恐怖心から加害者に逆らえなくなり、父母ともに子を虐待してしまう。
⑤ 加害者がDV被害者と子の関係を壊す
→加害者が「お前の母親はだめな母親だ」などとDV被害者の悪口を子に言い続けることで、「じゃあ言うことを聞かなくてもいいんだ」というように、被害者を軽んじるようになり、被害者と子供の関係が壊れてしまう

このような類型でわかる通り、DVは直接の被害者のみならず、子の心や身体にも様々な影響を与えかねない。「DV」と「児童虐待」の連関が唱えられる所以だ。

民間の先進的取り組み支援を表明 安倍首相も意気込む

こうした中、安倍首相は「Wリボン」の着用とあわせて、児童虐待対策やDV対策の関係者と意見交換を行った。

11月1日の懇談会
11月1日の懇談会

安倍首相は冒頭、「政府としても児童福祉士を2000人増員し5000人体制にして、抜本的に児童相談所の体制を強化していく」とする政府の取り組みを強調した。そのうえで「女性に対するDVが児童虐待と密接に関係していることも明らかになってきた」と指摘し、「それぞれの現場における(児童虐待と)DV対策との情報共有や対応における連携は待ったなしの課題」だと訴えた。

11月1日の懇談会
11月1日の懇談会

関係者からは“今後は児童福祉士の育成が大変重要な課題となっていく”“民間団体の継続的な支援をお願いしたい”といった意見が出され、安倍首相は「来年度に向けて、民間の先進的な取り組みを推進するため、新しい事業を推進したい」と応えた。

首相が表明した、政府の新たな取り組みとは、DV被害者のための民間によるシェルターに対する公的支援の不足が叫ばれる中、先進的な取り組みを行うシェルターに対する支援を行うことだ。

民間シェルターが、電話相談に抵抗のある若者向けにメールやSNSで相談を受け付けたり、臨床心理士等の専門家を配置したりするなど、先進的な取り組みを行うことが出来るよう支援を開始する事業で、内閣府は来年度からの事業開始に向け、およそ3.2億円の概算要求を行っている。

このほか、政府は、児童虐待問題及びDV防止に関する社会的関心の喚起を図るため、自治体や関係府省庁、関係団体等と連携した集中的な広報・啓発活動に取り組むこととしている。今回の「Wリボン」着用に加え、政府として初めてホームページで児童虐待とDVの関連について特集ページを設けた。

課題として、政府内で児童虐待を担当する部局とDV防止を担う部局が異なることから、連携が難しいということが挙げられるが、今般の啓発活動を経て、有機的な連携が図れるようになることを期待したい。

7人に1人が“DV被害” 児童虐待も最多

内閣府の最新の調査によると、配偶者からの暴力被害について、女性の7人に1人は何度も暴力を受けている。加えて、配偶者暴力相談支援センターに寄せられた相談件数は、過去最多の11万件超となっている(2018年度)。DVは決して縁遠い存在ではないのだ。
児童虐待についても、児童相談所の児童虐待相談対応件数(2018年度・速報値)は過去最多の15万9850件。2009年度に比べ、約13.7倍にも増えていることになる。

(児童虐待相談対応件数の推移:首相官邸配布資料より)
(児童虐待相談対応件数の推移:首相官邸配布資料より)

なお、数字上の件数増加の背景には、前述の「面前DV」が「心理的虐待」として児童虐待にカウントされるようになったこと(2004年)、また、虐待を受けた児童本人のみならず、きょうだいも「心理的虐待」を受けているとカウントされるようになったこと(2013年)も要因として挙げられる。

(政府の啓発ポスター)
(政府の啓発ポスター)

一方で、虐待の相談経路について、興味深いデータがある。警察による発覚が最多(50%)なのは想像に難くないが、次いで近隣知人(13%)、家族(7%)、学校等(7%)となっている。近隣知人を経路とする虐待相談については、総数が2万1449件だが、昨対比+4467件と大きく増えている。虐待の発見、相談の糸口として、まさに周囲の気づきが重要であるということを物語るデータとなっている。

なお、DVについて政府は、潜在化しやすい問題だとして、相談を受けた場合や被害に気付いた場合は、被害者が専門機関に相談できるよう支えてほしい、または専門機関や警察に相談してほしいとしている。なお、児童相談所の全国共通ダイヤル「189(いち早く)」は匿名で相談でき、今年12月より通話料金が無料となる。

橋本大臣 11月12日会見
橋本大臣 11月12日会見

橋本聖子大臣は会見で「多くの方に、家庭内の暴力から一人で抜け出すのは困難だと知ってほしい。また被害に悩んでいる方は、我慢せず相談をしてほしいし、被害に悩んでいる人を見かけた方は相談先を教えてあげてほしい」と語った。今回の啓発活動を通じ、DVや児童虐待防止に向けた機運が高まることを願う。

(フジテレビ政治部 首相官邸担当 山田勇)

山田勇
山田勇

フジテレビ 報道局 政治部