15頭のパンダのお父さん、永明
和歌山県白浜町にあるアドベンチャーワールド。日本でジャイアントパンダを飼育しているのは、東京・上野動物園、兵庫県・神戸市立王子動物園とここの3園のみ。これまでに16頭のパンダが生まれ育ち、現在も6頭が来園者を楽しませている。パンダの繁殖は難しいと言われるなか、なぜアドベンチャーワールドは繁殖に成功しているのだろうか。大家族を支える女性飼育スタッフに話を聞いた(文・撮影=粟野仁雄)

日本一の繁殖率

「コロナ禍で2月末からしばらく臨時休園しましたが、その間は全国の皆さまにオンラインで映像を無料配信し、楽しんでいただきました」と語るのは、10人いるパンダ飼育スタッフメンバーの一人、遠藤倫子さん。

東京から飛行機で1時間、大阪から電車で2時間。パンダの繁殖で世界から注目を集めるアドベンチャーワールドの「功労者」は、9月に28歳になるオスの永明(えいめい)。人間なら80歳を超える。そして9月に20歳となるメスの良浜(らうひん)だ。(下図参照)

このカップルは3組の双子を含む9頭の子どもを授かったが、そのうち5頭は繁殖のため、中国に旅立っている。現在は2014年に生まれた双子の桜浜(おうひん)・桃浜(とうひん)と、16年に生まれた結浜(ゆいひん)、18年に生まれた彩浜(さいひん)が同園で暮らしている。4頭ともにメスだ。

白浜での繁殖率が上野や神戸よりも高いのはなぜか。遠藤さんに尋ねると、「1年を通して温暖な気候などが合っていたのでしょうが、やはり来てくれたパンダが優秀だったことが一番大きい」と言う。

永明が白浜にやって来たのは1994年9月6日。メスの蓉浜(ようひん)とともに、世界初のパンダの「ブリーディングローン」制度で迎え入れられた。72年の日中国交回復記念にランランとカンカンが上野動物園に贈られ、日本では空前のパンダブームが起こったが、80年代、絶滅の危機に瀕したパンダを守るため、贈与や国際的な商業取引が禁じられた。

その後に登場したのが、「ブリーディングローン」という動物の貸借制度だ。パンダの場合、繁殖が可能なペアを中国が有償で各国に貸与。生まれた子どもは繁殖のため中国に旅立つ。なぜパンダでは最初の「ブリーディングローン」の対象として白浜が選ばれたのか。ベテラン飼育スタッフの熊川智子さんが語る。

「88年に中国からパンダが短期来日し、全国の動物園を3ヵ月くらいずつ回りました。そのとき、体調を崩したパンダがここで元気になり、帰国後に立派に繁殖したんです。また、アドベンチャーワールドではチーターなどの希少動物の繁殖に多く成功していたことも評価されたようです」

その後、前園長の林輝昭さんが熱心に中国と交渉して、実現したという。

●アドベンチャーワールドのパンダたち