最近の研究で、唾液はウイルスや菌をシャットアウトし、生活習慣病や感染症の予防に役立つことがわかってきました。その力を生かすためには、普段から口内のケアが欠かせないそうです。「唾液力」を研究し続けている槻木恵一さんに聞きました(構成=古川美穂 イラスト=村越昭彦)

水分以外の1%が重要だった

私は唾液が体に良い影響を及ぼす仕組みを「唾液力」と呼んで、研究を続けています。歯科医学において唾液の知識は必須なのですが、調べていくうちに、食物を消化する役割にとどまらず、治癒力も持つ天然の万能薬ではないかと考えるようになりました。

近年は唾液研究が盛んになり、生活習慣病や感染症の予防、さらには認知症やうつ病、ダイエット、アンチエイジングにまで関係していることがわかってきました。

ただ、唾液が治癒力をしっかり発揮するためには、「量」と「質」が保たれていることが重要です。

理想的な「量」は、健康な成人の場合、1日に1.5リットル程度。「質」は、唾液の中にある、抗菌などの機能性成分が働くことです。

唾液は99%が水分ですが、残りの1%には、100種類以上の機能性成分が含まれます。これらは、ウイルスや細菌の繁殖を防ぐもの、体の老化を防ぐもの、粘膜を保護するものなど、さまざまな働きを持っています。

特に重要な成分は、IgA(免疫グロブリンA)という免疫物質。体の中に侵入しようとするウイルスや細菌類をシャットアウトする働きがあり、免疫力の強い体を作るためには欠かせないものです。以前私が行った実験でも、唾液中のIgAには、インフルエンザに対抗する抗体が含まれていることが実証されました。IgAが少ない人は、免疫力が下がって、風邪を引きやすくなります。つまり「唾液力」があると、成分がしっかり働き、口内環境を整え、細菌や外的刺激から体を守ってくれるのです。

また、唾液中のラクトフェリンなどの抗酸化物質は、細胞の酸化を防ぐ重要な役割を担っています。唾液力が高いと、老化の進行を遅らせたり、がん細胞の増殖を防いだりといった作用も期待できるといえるでしょう。