イギリス在住のブレイディみかこさんが『婦人公論』で連載している好評エッセイ「転がる珠玉のように」。今回は「日本の介護スゴイ」。母親の介護のため帰省した際に目の当たりにした日本の介護業界のスゴさ。何よりびっくりしたのは訪問入浴サービスで――。(絵=平松麻)

日本の介護業界はマジでスゴかった

正月早々、妹からメールで送られてきた写真を見て、なんとも言えない気分になっている。それはホスピスの母親の病室の入口にあったという、質素ながらも美しいお正月飾りの写真だった。いつ何があってもおかしくないと言われている患者のために、正月にふさわしい色彩の花を小瓶に活け、ウサギの置き物を配置して新年の飾りを施す。この気配りにはじわっとくるものがある。

じわっとくる理由は、その飾りの大きさや雰囲気のちょうどよさというか、押しつけがましくないやさしさのせいだ。この過不足のない思いやりは、プロフェッショナルであると言い換えることもできる。この種のプロフェッショナルさを、わたしは昨年の年末、日本でたくさん見てきた。

一時退院した母親の介護のために帰省したとき、巡回の看護師さんなど在宅緩和ケアの仕事に携わっておられる方々の、すばらしい仕事ぶりを目の当たりにしたのだ。わたしは平素、「英国はこうだけど、日本はその点ダメである。もっと変わったほうがいい」みたいなことばっかり言うと思われているので、ここで日本スゴイとか言い出すのも気が引けるが、日本の介護業界はマジでスゴかった。

何よりびっくりしたのは訪問入浴サービスである。わたしの両親の家のような狭い住宅の玄関から、組み立て式の浴槽の部品を抱えた3人の若者たちが元気よく入って来た。かと思うと、介護ベッドと家具でぎりぎりのスペースしかない6畳間にしゃかしゃかと浴槽を組み立て、庭に停めてあるバンからホースを引いてきてお湯を溜め、あっという間に畳の部屋にお風呂を作ってしまうのだ。