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2021/6/23 6:00

育児は大事な「渋滞期間」。世界一幸福な国の子育ては意外と平凡だった

2021年3月に発表された国連の世界幸福度ランキングにおいて、4年連続で1位になったフィンランド。幸福度だけでなく、治安や教育レベルも高い国として知られていますが、家庭に目を向けると共働き夫婦が多く、父親も子育てに参加するのが一般的。2022年からはパパ・ママどちらも最大160日の育児休暇を取得できるようになる予定ですが、そんなフィンランドで育児と教育は実際にどのように行われているのでしょうか? 現地で4歳と7歳の男の子を育てているフィンランド人パパのヨニさんにインタビューしてみました。

↑物事が滞る分、幸せは増える

 

義母のプレッシャー

――フィンランドは世界一幸福な国と言われていますが、子育てでも何か特別なことがあるのでしょうか?

 

ヨニさん いやいや、私たちは特別なことをしているわけではないと思いますよ。ただ何よりも子どもたちの幸福が大切で、憂鬱や不安を感じることなく、ありのままでいられる環境が必要だと思います。そのため、ゲームや宿題をしたり、動物園に連れて行ったり、キャンプをしたり、さまざまなことを一緒にするようにしています。

 

――なるほど。夫婦では子育てについて、どのようなことを話していますか?

 

ヨニさん 妻とは1日の終わりに、その日の子どもたちの様子について話すことが多いです。小学校や幼稚園の先生から聞いた話だったり、今日一日の健康状態だったり。送り迎えのときに子どもたちはどんなことを話していたかとか。ときには疲れ果てて、子どもと一緒に寝てしまうこともありますが(笑)。

 

子育ての役割分担について話し合うことも当然あります。妻の仕事が終わるのは私より遅いので、子どもたちが小学校や幼稚園から帰ってきた後に面倒を見るのは私の役割。子どもたちの予定と自分の仕事の予定に合わせ、互いが協力して子育てができるように話し合います。

 

――夫婦の協力は不可欠ですよね。家庭教育はどのような感じですか?

 

ヨニさん 学校教育が総合的な学びを集団で行う場所だとしたら、家庭教育は家庭により内容や形式が異なります。しかし我が家を含め、子どもを積極的に外で遊ばせる家庭が多いですね。身体を動かすことは大切ですし、私たちも子どもたちには、いろいろな友達と交流してほしいと思っています。

 

また、子どもが友達と外で遊んでいる間は家の中が静かになるので、親は昼寝をしたり、好きなことをしたりして時間を過ごすことができます。やはり仕事をしながらの子育ては大変な部分も多く、この時期をフィンランド語では「Ruuhkavuodet(直訳すると「渋滞期間」)」と呼ぶのですが、子どもが小学校を卒業するまで親は多忙な日々が続きます。だからこそ、子どもが少しでも自分たちで外遊びをしてくれると助かります。

 

――父親ならではの大変さはありますか?

 

ヨニさん もちろん家庭にもよりますが、フィンランドでは結婚したときに、夫が妻の両親から「この男で大丈夫なのか?」と厳しくチェックをされる場合があります。結婚後も、育児を含め日常の生活について義父母が娘の夫に対して強めな態度をとることが多いようです。女性の権利が保障されているからこそとは思いますが、私も結婚当初は義母から、ちょっとしたプレッシャーを感じたこともありました(笑)。

↑ラッペーンランタにあるキャンプ場の湖。フィンランドは4月から8月にかけて日照時間が長く、夜8時を過ぎても明るいため、子どもがひとりで出歩いてもあまり危険ではない

 

いつでも学び直せる国

――少し話を変えますが、フィンランドの教育の特徴は何ですか?

 

ヨニさん 教員のレベルが高いのではないでしょうか。小学校から高校までの教師は大学院で修士号を取得しなければならないため、教育レベルが高い教師から教育を受けることができます。

 

また、小学校から高校までは学費、教材費、給食費はかからず、大学も学費はかかりません。大学進学において経済的な障壁がないため、どの家庭の子どもにも等しく学ぶ機会が与えられています。

 

2021年からは小学校から高校(または職業訓練学校)までが義務教育として定められました。12年間しっかり学んだほうが仕事を得るチャンスも増えるので、これは良いことだと思います。

 

――子どもたちには、どのような教育を受けてほしいですか?

 

ヨニさん それは子どもたち自身が決めることです。ただし、基本的な礼儀や優しさは必要なので、よく言い聞かせています。フィンランドの社会では、時間に遅れたり、嘘をついたりするような不誠実な対応をすると信頼を失ってしまいます。そのため、子どもには日々の生活の中で挨拶や他人への配慮を忘れないように言い聞かせています。

 

また、幼少期のうちに自信をつけさせることが大切だと考えています。どれだけ容姿が整っていても、成績がよくても、自分に自信がなければ生きづらくなってしまいます。そのため、アイスホッケーやサッカーといった、社交性を育みながら自信をつけることができるチームスポーツに積極的に参加させています。

 

――現在、子どもたちが学校外で受けている教育はありますか?

 

ヨニさん 公立の学校教育を信頼しているので特にはありません。この国では就職後でも大学や大学院などで学び直しができるため、機会さえあればキャリアはいつからでもスタートできます。だからこそ、いまから親が子どもたちの将来を決めることはしません。このような公立の教育機関に対する信用や子どもの自主性の尊重が、フィンランド人の幸福度の高さに貢献しているのかもしれませんね。

 

パーフェクトではない

ヨニさんからフィンランドの育児や教育に関するお話を伺いました。どうやら同国と日本の間には共通点と相違点があるようですが、それらに詳しく立ち入ることは別の機会に譲り、ここでは公平な見方をするために、フィンランドが移民や離婚の多さに関係した問題を抱えていることを指摘しておきましょう。

 

まず親が移民で、フィンランド語や英語で会話をすることができない場合、さまざまな苦労があるようです。学校と家庭での教育方針について先生と円滑にコミュニケーションが取れなかったり、親や子ども同士で人間関係を築きづらかったり。いじめの問題もあるようです。

 

また、フィンランドではシングルマザーやシングルファザー向けの経済的なサポートが充実している反面、2019年には離婚率が42%まで上昇しました。しかも、離婚後に子どもと親の関係がうまく行かなくなったり、親がアルコール依存に陥ってしまったりするなど、深刻なケースも多く見られます。このような問題は今後、日本でも現れる可能性があるので、フィンランドでの対策に注目すべきかもしれません。

 

このような問題を内包しながらも、4年連続で世界一幸福な国に選ばれているフィンランド。ヨニさんの話を聞く限り、同国での子育ては意外と平凡に思われるかもしれませんが、私たちはよく「幸せは平凡な暮らしにある」と言います。日本のパパ・ママも育児を「渋滞期間」と捉え、どっしりと構えることで、忙しい生活に少し余裕が生まれるかもしれません。