科学者たちが西南極に「終末氷河観測所」を作る

  • 5,805

  • author Dharna Noor - Earther Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
科学者たちが西南極に「終末氷河観測所」を作る
Image: David Holland/NYU & NYU Abu Dhabi

温暖化のループが止まらないどころか加速するばかり。もう南極を難局にタイポしても気づかなくなってしまいそう。

気候危機によって南極の氷がかつてない速さで溶けています。そして今回、科学者たちはさらに厄介なサインを見つけてしまいました。これまでに例のない温かい海水が、世界中の沿岸地域に暮らす何百万人もの運命を握る氷河の下に流れ込んでいるのだそうです。いうまでもなく、壊滅的な結果につながってしまうかもしれません。

氷点よりも高い温度の海水が終末氷河を下から溶かす

広大なスウェイツ氷河(Thwaites Glacier)は、西南極の氷床からアムンゼン海(Amundsen Sea)へと滑りおりて、海に張り出して浮かぶ形になります。この南極大陸で最も脆弱な氷河が崩落すれば、そこから連鎖的に崩落が起こって、海面が10フィート(約3メートル)上昇する可能性があります。この氷河が「終末氷河(doomsday glacier)」と呼ばれているのもうなずけますよね。研究者たちは数十年にわたってこの氷河が不安定になっているのを把握していましたが、最近の研究で氷河の下の特に重要な部分に温かい水が流れているのを初めて確認しました。

アメリカとイギリスから集まった100人からなる研究チームは昨年12月、スウェイツ氷河で初めてとなる大規模な調査に向かいました。氷河に散らばった各チームは氷河下部の撮影を行なうなど、それぞれがさまざまなタスクをこなしました。あるチームは、氷に海まで届く2,000フィート(約610メートル)の穴を開けて、そこから海水温と海洋乱流を計測できる装置を海に落とす作業を行ないました。その結果、海水が凍る温度を2度上回る0度を記録したそうです。

この警告ともとれる海水温の高さは、氷河が大陸から海に張り出すポイントで記録されました。スウェイツ氷河は、不運なことに氷の下の地形が海に向かって下り坂になっているので、張り出した氷の下に流れ込んだ海水によって氷が溶けやすくなってしまいます。おまけに海流が荒いため、海水(温かい)と氷河のとけた真水(冷たい)が混ざりあって温かくなった水が大陸側へと押し流されることによって、氷がさらに速くとけてしまいます。

調査を行なったニューヨーク大学の氷河学者であるDavid Hollandは、今回の結果についてプレスリリースで、「起こっているであろう止めようのない氷河の後退は、地球規模の海面上昇に多大な影響を与えることを意味します」と述べています。

Video: New York University/YouTube

最悪の場合3メートル上昇する海面によって沿岸都市が沈んでしまう可能性も

海面上昇は、私たちから遠く離れた氷河が溶けている場所だけに影響を与えるわけではありません。世界中の沿岸地域にあるコミュニティは、海に流れ込む余分な水と戦わなければならなくなります。

Hollandは「遥か遠くにあるようでも、この西南極の温かい水を、気候変動によって地球にもたらされるかもしれない悲惨な変化に対する警告なんだと受け取るべきでしょう」と話しています。

フロリダ州ほどのサイズがある7万4000平方マイル(約19万2000平方km。本州の84%の面積)のスウェイツ氷河は、これまで起こった海面上昇に4%寄与しています。スウェイツ氷河が崩壊するだけで、3フィート(90cm)近く海面を上昇させる氷が海に流れ込んでしまうそうです。

でも、もしかするとその程度ではすまないかも。同じ西南極氷床に位置するパインアイランド氷河(Pine Island Glacier)も、スウェイツ氷河と同じように陸地が海に向かって下り坂になっているので、温かい海水が張り出した氷の下に流れ込むことになるのだとか。もしも両方とも溶けると、とんでもない量の氷が海に流れ込んで海面が最大で10フィート(約3メートル)上昇することになり、そうすると多くの沿岸都市が海に沈んでしまいます。

スウェイツ氷河がどれくらいの速さで溶けるのかはハッキリわかりません。でも、気候危機が加速しているのはたしかです。そしてこれは、世界中のあらゆる場所にとって脅威です。だって、南極で起こっていることが南極にとどまってくれるわけがないのですから。

西南極の氷河が溶けてしまっても、急に海面が上昇するわけではありません。数百年から千年単位の時間をかけて上昇します。だからといって、「なんだ、じゃあいいや」なんて安心している場合ではありません。温暖化の原因を作ってきた私たちは、一刻でも早く二酸化炭素の排出量をゼロにするために、最大限の努力を続けないといけません。