地球は大丈夫? 世界の激動のエネルギー事情をまとめました

  • author Molly Taft - Earther Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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地球は大丈夫? 世界の激動のエネルギー事情をまとめました
Image: hrui / Shutterstock

地球温暖化やウクライナ侵攻によるエネルギー危機、それに伴う再生可能エネルギー導入の加速と原発回帰など、最近のエネルギー転換をめぐる動きを追ってみました。

1. ロシアのウクライナ侵攻がエネルギー危機の引き金に

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Image: Alexandros Michailidis / Shutterstock

昨年2月下旬にはじまったロシアによるウクライナ侵攻は世界に大きなショックをもたらしましたが、エネルギー分野にも消えることのない爪跡を残しました。ヨーロッパが輸入している天然ガスの40%を占めていたロシアからの供給が停止したことで、世界はエネルギー危機に陥り、侵攻前から上昇がはじまっていた原油価格一気に高騰しました。

専門家は、紛争が長引くと、この冬にヨーロッパがエネルギー不足に陥る可能性があると指摘します。一方で、石油ガス産業は棚ぼた的な巨額の利益を得ています。明るい話題としては、危機に直面した各国政府が代替燃料の調達やクリーンエネルギーへの移行を本格化させるなど、紛争が技術革新へのきっかけになりました。紛争なしでも技術革新を加速させてほしいところです。

2. アメリカ初の気候変動対策法が成立

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Image: designer491 / Getty Images

気候科学者が世界に警鐘を鳴らしはじめてから30年。アメリカがやっと重い腰を上げました。

昨年9月に成立したインフレ抑制法は、バイデン大統領が政権発足当初に掲げて燃え尽きてしまった、野心的な気候変動対策法案Build Back Better Act(ビルドバック・ベター法案)の燃えかすから生まれました。化石燃料産業から献金を受けているウエストバージニア州選出の連邦上院民主党議員であるジョー・マンチン氏は、数カ月間にわたって特定の条項に反対し続けた末にビルドバック・ベター法案に賛成票を投じないと表明。ところが、気候変動を止めるためのかすかな希望が消えたと思われた7月、マンチン議員は民主党指導部と協力し、気候変動対策とエネルギー転換のための減税やリベートなどに3700億ドル(54兆円)を投資するインフレ抑制法案を提出するサプライズに出ました。マンチン議員は原油のパイプライン建設認可を交換条件に自分がつくった問題を自分で解決したのに、まるで救世主のような印象を残しました。

インフレ抑制法は、アメリカ連邦議会が可決した史上最大連邦上院では初の気候変動対策法案になりました。すったもんだの末に上院を通過した同法案ですが、そこから下院で可決されてバイデン大統領が署名するまではスムーズでした。マンチン議員だけが問題だったんです。たったひとりの議員がアメリカの気候変動対策、ひいては世界の気候変動対策の鍵を握るなんて怖くないですか。ここから先は、法案成立に抵抗した共和党が再エネ事業への投資に難癖をつけてくるのを警戒する必要があります。

3. ESG投資への抵抗が拡大

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Image: Dan Patrick/YouTube
テキサス州のダン・パトリック副州知事

ネットゼロを掲げ、気候変動を止めるための役割を果たすことを公約し、環境(Environment)社会(Social)に配慮した事業運営と適切な企業統治(Governance)がなされている会社に投資する「ESG投資」を支持する企業が増えた2021年初頭は、資本主義でも世界を救えるかもと一瞬思えました。ところが同年、テキサス州のダン・パトリック副州知事が「石油ガス企業をボイコットする企業との取引を停止する法案」を提出。それでも「イスラエルを支援しない企業を罰する法案」をモデルにつくったトンデモ法案だからと真剣に受け取られていませんでした。

ところが、トンデモ法案だったはずなのに、石油ガス企業の本社がひしめく保守王国テキサス州で火がついた金融機関いじめによる気候変動対策遅延運動は、現時点で15州以上に拡大しており、保守系テレビ局で反ESGの話題が取りあげられたり、ESG投資家を排除した投資ファンドが設立されたりしています。その影響で、Vanguard(バンガード)やBlackRock(ブラックロック)などの大手資産運用会社が気候変動への取り組みを後退させています。

4. 原発回帰

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Image: George D. Lepp / Getty Images

エネルギー危機がはじまる前にカリフォルニア州でただひとつ稼働していたディアブロ・キャニオン原子力発電所は、他のエネルギーに対する競争力の低さや維持コストの高さ、立地への懸念などから、2025年に閉鎖されることが決まっていました。しかし、昨年9月初旬、州議会は2021年に電力の9%をまかなった原発の運転を2030年まで延長する決定を下しました。

原発回帰を目指しているのはカリフォルニア州だけではありません。エネルギー危機も相まって、原発を支持する声も大きくなっています。ドイツも原発の運転期間延長を決定日本も運転延長を検討しています。一方、バイデン政権は苦境に立たされているアメリカ国内の原発を救済するために60億ドルの資金を準備しているそうです。また、最先端の原子力技術に対する機運や投資への熱も高まってきているんですよね。

5. 石油戦略備蓄が過去最低水準に

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Image: Fahroni / Shutterstock.com

中間選挙が控える重要な年にガソリン価格が高騰する中、バイデン大統領は2022年初頭にルイジアナ州とテキサス州に保管されている石油戦略備蓄(SPR)から数カ月間で1億8000万バレルを放出する計画を発表しました。1970年代のオイルショック時に開始されたSPRは、計画された放出が完了する頃には最低水準まで低下しました(といってもまだ4億バレルくらい残っていたそうですけど)。

気候変動を最優先課題に掲げている政権ですら備蓄を崩すくらい、エネルギー危機は深刻だったということでしょうね。SPR放出で備蓄が最低水準まで下がったことは、ここ数年にわたる激動のエネルギー事情を物語っていると言えます。3年ちょっと前にパンデミックによって原油価格がマイナスに転落した際、トランプ政権はSPRを満タンにすることを提案しましたが、その動きを石油産業救済目的とみた民主党によって阻止されました。バイデン政権はすでにSPRを補充するために原油購入を開始していますが、原油価格が乱高下する中でどんな状況に陥ってもおかしくない気がします。

6. 気候災害で再エネが危機に

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Image: iStock / Getty Images Plus

熱波、干ばつ、山火事、洪水。昨夏は世界中で気候変動の影響を受けた気象災害が相次ぎました。皮肉なことに、温暖化を止めるために必要な、二酸化炭素を排出しないエネルギーが気象災害の影響を受けてしまいました。中国スペインでは干ばつと熱波によって水力発電の出力が激減。フランスでは河川の水温が上昇したために冷却不能に陥り、停止する原発もありました。気象災害によって代替エネルギーが不安定になる中で需要が増加して恩恵を受けたのが、温暖化の原因をつくっている化石燃料産業だったというのもまた皮肉な話です。

7. 危機下でも成長を続ける再エネ

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Image: Simone Hogan / Shutterstock

気候変動が寄与する気象災害の影響で発電量が低下する困難に見舞われたりもしましたが、トータルでみると再エネは順調に成長しています。風力や太陽光などの自然エネルギーは、世界中でエネルギー危機によって生じた電力供給ギャップを埋めるのに貢献しました。国際エネルギー機関(EIA)は昨年12月に、2025年には再エネが石炭を抜いて世界最大の電源になる見通しを発表しました。EIAはまた、23年から27年にかけて、再エネが2020年の推計よりも30%増加すると予想を上方修正しました。これは、エネルギー危機への対応策として世界の国々が再エネに巨額の投資を行なったことを示唆しているそうです。


人々の生活を苦しめることなく、気候変動にもエネルギー危機にも柔軟に対応できる社会をつくるために、地球温暖化の原因になる二酸化炭素を排出せず、発電コストが最も安い再エネ導入がもっと加速するといいですね。

Source: International Renewable Energy Agency