竜巻予測、積乱雲が鍵 精度向上へ研究続く 茨城・つくば被害12年

ペットボトルを使った「ミニ竜巻」の発生実験=つくば市天王台

茨城県つくば市北部を襲った竜巻から6日で12年。市内研究機関は竜巻による人的被害を減らそうと、予測精度を向上させる研究や啓発活動などを進めている。竜巻は発生予測が難しいため、研究者らは竜巻発生の鍵を握る積乱雲の動きに注目。「天気の情報を日常的に見る習慣を」と日頃の備えを呼びかける。

■国内最大級

「かなり発達した積乱雲だな」。2012年5月6日昼ごろ、気象研究所(つくば市長峰)の5階。台風・災害気象研究部第2研究室の益子渉室長は、窓から見える筑波山周辺を見ながらそう思った。

同研究所周辺は青空が広がっていたものの、北に約15キロ離れた筑波山の麓では黒々とした雲が空を覆い、稲妻が光っていた。

同日午後0時半ごろ、同県常総市からつくば市にかけて、国内最大クラスに発達した竜巻が襲った。消滅するまでの約18分間で数多くの建物が損壊し、被害の範囲は幅500メートル、長さは約17キロに及んだ。茨城県と栃木県の3カ所で発生し、中学生1人が死亡、計52人がけがを負った。

家屋などの損壊は、同市北条地区を中心に約1100棟。住宅が基礎部分から剥がされたり、屋根が全て吹き飛ばされたりした。地表の被害から風速は秒速70~92メートルと推定された。

■実態未解明

竜巻は発生頻度が少なく、範囲も限られて継続時間も短いため観測そのものが難しい。実態や発生のメカニズムにも未解明の部分が少なくないという。

同研究所屋上に設置された「二重偏波レーダー」では竜巻発生直前、上空に強い渦を伴う巨大積乱雲「スーパーセル」を観測していた。積乱雲の下には、強い雨をもたらす「かぎ状雲」があり、レーダーは、この雲の先端で竜巻が発生する様子を捉えていた。

益子室長はその後、観測データを基に竜巻の再現実験に取り組む。さまざまなシミュレーションを重ねた結果、竜巻の渦は少なくとも高度4キロに達していたことが判明。かぎ状雲の先端部分であった降雨の影響で、上昇気流の下側に冷たい下降気流が入り込んで渦を生み、竜巻を発生させたと明らかにした。

竜巻発生の予測はいまだ難しいとされているが、益子室長は、観測機器やシミュレーション技術の向上を挙げ「発生メカニズムの知見の蓄積が進めば、将来的に予測精度の向上も期待できる」と先を見据える。

■早期避難を

竜巻の危険性を広め、防災に生かす取り組みを続けているのは防災科学技術研究所(同市天王台3丁目、防災科研)だ。

レーダーで積乱雲を追跡し、竜巻の危険度を予測する技術を研究する下瀬健一主任研究員らは、子ども向けの竜巻防災教室で、ペットボトルを使った「ミニ竜巻」の発生実験や映像を通して竜巻の仕組みや備えを解説。「竜巻が来る前に危険な場所から離れることが大事。危なそうな雲がある時は外出しないで」と呼びかけている。

防災科研では、発達した積乱雲や風や雷のリアルタイム情報も配信。下瀬主任研究員は「皆さんに使ってもらえる技術を届け、早期避難につながる研究開発を推進したい」と話した。

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