「安いニッポン」の本当の恐ろしさとは何か 「貧しくなること」ではないスピン経済の歩き方(1/6 ページ)

» 2021年06月30日 09時25分 公開
[窪田順生ITmedia]

 日本経済新聞で6月22日から「安いニッポン ガラパゴスの転機」というシリーズ記事が始まった。

 消費者が「安さ」を強く求める日本は、世界で需要が盛り上がって価格が高騰しているズワイガニを買うことさえ難しくなってきた――というような、デフレ国家・日本のシビアな現実が毎回紹介され、ネットやSNSでは「日本が2流国家に成り下がった証だ」などと反響を呼んでいる。

「安いニッポン」が報じられ話題に(画像はイメージ)

 実はこのシリーズは昨年もやっていて、『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(日本経済新聞社)という新書にまとめられよく売れているという。それを受け、6月27日には『Mr.サンデー』(フジテレビ)でも「安いニッポン」特集が組まれた。軽井沢の別荘が、香港やシンガポールと比べると破格に安いことから、中国人富裕層などに飛ぶように売れている実態がレポートされ、「安いニッポン」を改善しないと、今の子どもたちが大人になる時代には「貧しいニッポン」になってしまう、なんて警鐘も鳴らされていた。

 海外で生活したことがある人などからすれば「何を今さら」という話だろうが、大手マスコミがこのようなテーマを取り上げるようになったことは悪いことではない。「賃金引き上げ」について国民が真剣に考えるきっかけになるからだ。

 以前から『「賃金上げたら日本は滅びるおじさん」の言っていることは、本当か』(2019年8月6日)などでも指摘させていただいてきたが、日本経済低迷の主たる要因は、先進国の中でもダントツの「安い賃金」だ。

 マスコミの「安いニッポン」キャンペーンによって、今や韓国にまで追い抜かれしまった「安い賃金」という構造的な問題に国民の関心が集まれば、世界では常識となっている「継続的な賃上げ」に遅ればせながら日本も踏み切るべきだという機運が高まる、かもしれない。

 だが、そのような淡い期待を抱く一方で、マスコミの「安いニッポン」報道の論調には若干の物足りなさも感じている。例えば、「安いニッポン」を放置しておくと、日本人はどんどん貧しくなってしまうというのがマスコミの主張だが、現実問題としてとっくの昔にわれわれは貧しくなっている。

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