(英エコノミスト誌 2021年5月1日号)

台湾有事は何としても避けなければならない(写真は台北の繁華街)

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台湾の将来をめぐる戦争を避けるべく、米中はもっと努力しなければならない。

 一級品の知性の持ち主かどうかの分かれ目は、2つの対立する考えを頭の中に同時に抱きながら、それでもきちんと行動できるか否かにある──。

 作家のF・スコット・フィッツジェラルドはそう記した。

 高度な曖昧さをまさにそのように駆使することによって、中国本土の沿岸部から東方160キロの海に浮かぶ人口2400万人の島・台湾をめぐる米国と中国の平和は数十年間維持されてきた。

 中国の政治指導者たちは、この世界に中国は一つしかない、それは自分たちが治めている国であり、台湾は反抗的な一地方だと主張している。

 米国は「一つの中国」という考え方に理解を示しつつも、実際には2つの中国を維持できるように70年間努めてきた。

中国の台湾侵攻への不安

 しかし今、その戦略的な曖昧さが崩れ落ちつつある。米国は、中国が台湾を武力で手に入れることをもう抑止できないのではないかという恐怖心を抱きつつある。

 米軍インド太平洋軍司令官のフィル・デービッドソン海軍大将は3月に開かれた連邦議会の公聴会で、中国が早ければ2027年にも台湾を侵攻するかもしれないとの懸念を表明した。

 戦争が始まれば大惨事になる。

 その理由は、台湾の人々の血が流されることや、核大国同士の対立がエスカレートしかねないことだけにとどまらない。

 まず、経済的な理由がある。台湾は半導体産業の中心地だ。

 台湾積体電路製造(TSMC)は半導体メーカーとしては世界最大の企業価値を誇り、最先端の半導体で84%のシェアを持つ。

 TSMCで生産が停止するようなことがあれば、世界中の電子産業がストップし、計算できないほど大きな損失が生じる。

 TSMCの技術とノウハウは恐らくライバル企業のそれより10年ほど進んでいる。米国や中国が同社に追いつくには何年もの歳月がかかるだろう。

 それ以上に大きな理由は、台湾が中国と米国の対立の舞台であることだ。