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色気を奪われた斎藤工を見るべきワケ。おちぶれた漫画家を演じた映画『零落』

 斎藤工主演の映画『零落』が、2023年3月17日(金)から公開されている。
©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会

©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会

 名優・竹中直人による監督作品で、かつて売れっ子だった漫画家の零落(=落ちぶれること)の日々が綴られる。この零落感、斎藤工にぴったりだと思った。でもそこには色気ある斎藤工はいないというのが本作最大の見どころ。 「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、色気を奪われながらも“工(たくみ)な”低音ボイスで美声を響かせる斎藤工に迫る。

色気むんむんの斎藤工ではなく

 これはぜひとも劇場のスクリーンで観てもらいたい作品だ。竹中直人監督の洗練された映像センスがすばらしいからか、それとも主演の斎藤工の演技がすばらしいからなのか。理由はどちらもなのだけれど、主人公の“声”を聴くためだけでも足を運ぶ価値はある。  8年に及ぶ長期連載を終えた深澤薫(斎藤工)は、一時はヒットを飛ばしたものの、最終巻の発行部数を減らされ、すでに終わった漫画家になっている。自分の漫画が売れないことにいら立ち、あっという間に落ちぶれる。あとは腐る方向へ一気に傾くしかない。  という役柄上、これはいつものように色気むんむんの斎藤工を必ずしも見られる作品ではない。負(腐)のオーラに包まれた深澤は、終始どよんとしていて、お世辞にも色っぽいとはいえないからだ。でもそのかわり、この深澤を通じて斎藤工の深い味わいが楽しめる“声のドラマ”に期待してほしい。

もごもご低音の聞き取りづらさ

©2023浅野いにお・小学館/「零落」制作委員会 最初、深澤の声はほとんど誰の耳にも届かない。あまりに低音だからか、相手の耳にもごもごと聞こえてしまう。妻ののぞみ(MEGUMI)にしろ、久しぶりに集まった同級生たちにしろ、深澤のぼそぼそ言葉に対して彼らは必ず、「え?」と聞き返す。  のぞみにいたっては、「なんて言ってるか聞き取れないんだよね」とはっきり指摘する。彼のもごもご低音ボイスは、劇場のクリアな音響空間で聞いている観客にでさえ、くぐもっていて、聞き取りづらいところが多い。  でもそこは、斎藤工のあの低音ボイスである。クールなもごもご感といったらいいだろうか。これがたまらなく耳に心地いい。深澤の破綻した人格に反比例するように、この低音がどれほど複雑な効果を生み出していることか。
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「え?」のボイスドラマ
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