教壇に立ちながらも、芸人とプロボクサー目指す 岡村隆史さんに憧れ、奮闘する保健体育科の教諭

生徒たちに何事にも「本気!」で挑戦することの大切さを伝えたいと話す吉田教諭=横浜市鶴見区の聖ヨゼフ学園中学・高校

 慢性的な人手不足などの課題を抱える教育業界で、明るい話題を届けようと奮闘する保健体育科の教諭がいる。聖ヨゼフ学園中学・高校(横浜市鶴見区)で勤務する吉田武蔵さん(34)だ。教壇に立ちながらも、ピン芸人の日本一を決める「R─1グランプリ」やボクシングのプロテスト合格を目指すなど、多様な働き方を自らの背中で示している。

 吉田さんは青森県むつ市出身。仙台大で教員免許を取得後、仙台や札幌、大阪などで中学校教諭を務め、2020年4月から同校で働き始めた。「全国各地の学校や生徒を自分の目で見たかった」。共通して感じたのは、教員のなり手不足や職場の閉塞(へいそく)感だった。

 「不人気な職場という認識がまん延して暗い話題が多い。自分が教員という枠を超えて活躍し、可能性を広げたい」。脳裏に浮かんだのは、お笑い芸人の岡村隆史さんだ。バラエティー番組内で大学受験やブレイキン(ブレイクダンス)に真っ正面から取り組み、高い壁を次々と乗り越えていく姿に驚き、憧れた。「お笑いという枠組みを超えて、人を感動と笑いで包み込むことができるんだ」

 30歳の節目を機に、19年4月から芸能事務所のスクールに週1回程度通うようになった。芸名は「先生MUSASHI」。クイズ形式で現役教諭が世相を斬っていくスタイルで、社会人のお笑いライブのステージに立ち続けている。さらに今年1月からは「普通の先生が挑戦し、努力すればプロボクサーにもなれる姿を見せたい」と、ボクシングのプロテスト合格を目指してジムに通い始めた。

 22年12月には青森県で暮らす両親が交通事故で亡くなる悲劇に見舞われた。心の傷は癒えないが、それでも笑顔を絶やさないのは教え子や同僚の「先生頑張って!」というエールに励まされ、支えられているからという。「暗い気持ちになる暇もないんですよ」

 同月のR-1グランプリ予選では、初めて1回戦を突破した。職場に新たな風を吹き込む吉田さんは「日本一、面白い先生になりたい」と真剣そのもの。多田信哉校長も「子どもの心を持ち続ける吉田先生の行動は、生徒に良い影響を与えてくれている」と目尻を下げていた。

© 株式会社神奈川新聞社