公開日:2024/03/12 更新日:2024/03/12
企業からのスカウトに振り回されるな!転職活動の思わぬ落とし穴【27歳からのキャリア戦略】
転職サイトや転職エージェントに登録している人の中には、たくさんのスカウトメールを受信している人もいることでしょう。スカウトメールをたくさん受信する人は、転職市場で価値が高いのでしょうか?「いつでも転職できる」ととらえていいのでしょうか?
その答えに異を唱えるのは、転職サイト「リクナビNEXT」の元編集長で、30年以上にわたり中途採用に携わってきた転職のプロ・黒田真行さん。「スカウトメールには思わぬ落とし穴がある」と警鐘を鳴らしています。初めての転職を考えている人が、スカウトメールに振り回されないために大切なことを伺いました。
大量のスカウトメールを受信して「市場価値が高い」と勘違い
Q. 近年増加しているスカウトメールサービスの現状について教えてください。
転職の手段は、時代とともに変遷してきました。50年前の2大ルートは、縁故(現在のリファラル採用)と公共職業安定所(ハローワーク)でした。その次に新聞広告の求人広告が多かった。1975年には求人広告専門情報誌(リクルート『就職情報』)が登場します。いずれも、自分で求人情報を探して応募するスタイルでした。
2000年代に入ると状況は大きく変わりました。求人広告がインターネットに掲載されるようになったのがこのころです。求職者が個人情報や職歴を転職サイトに登録することで、その登録情報をもとに企業側がスカウトメールを送信する形で求職者にアプローチできるようになりました。
一方で、1999年の職業紹介業の規制緩和(※)により転職エージェントが成長。企業からすると、掲載する段階で料金を払う求人広告に対して、転職エージェントは成功報酬型でコストの面でリスクが少なく、応募者対応も企業のかわりにしてくれるメリットがあり、20年ぐらい前から一般化してきました。
(※)職業安定法の改正に伴う民間の有料職業紹介事業の原則自由化によって、民間事業者による営利目的の職業紹介が実質的に解禁された。
このような事情で、転職サイトや転職エージェントの利用者が増加しました。
今までは求職者側がラブレターを書いて告白するしかなかった状況が、「転職サイトに登録さえしておけば企業側からスカウトメールが届く」という両方のルートができるようになったというわけです。
読者の中にも、今すぐに転職する気はなくても、自分の市場価値を測る目的や、情報収集のために登録している方も多いのではないでしょうか。利用者の増加に伴い、送信されるスカウトメールの数はどんどん増えている状況です。ところがこのスカウトメールが、転職活動にデメリットをもたらすこともあるのです。
Q. どのようなデメリットなのでしょうか?
求職者が多くのスカウトメールを受信すると、「自分は市場価値が高い」と勘違いしてしまうリスクがあるということです。企業の中には、ターゲットを絞らずにスカウトメールをダイレクトメールのように大量送信していることも。「自分に需要があるからスカウトメールが送られてくる」とは限らないのです。
Q. ダイレクトメールのようなスカウトメールと、本気でスカウトしようと送ってきているメールの見分け方はありますか?
例えばあなたが編集の仕事をしているとしたら、「あなたが編集された記事を見て、すごく力量を感じました」などと、自分の仕事を見てくれたから書けるような文面になっていれば、本気のスカウトだとわかります。あるいは、あなたの職務経歴を丁寧に読み込み、どんな会社でどんな成果を出してきたかを知って「お会いしたい」と言ってきていることがわかる内容なら、それは本当のヘッドハンティングです。
転職に本気でないときのスカウトメールの扱いには要注意
Q. 転職サイトやエージェントに登録したばかりで、まだ具体的に転職について考えていない段階でも、スカウトメールは送られてきます。
もしあなたが転職に本気でない場合、スカウトメールからむやみに企業と接触するのには細心の注意を払った方がいいでしょう。
一つ目の弊害は、 貴重なカードをつぶしてしまう可能性があること 。「それほど興味はないけれど、話だけ聞いてみよう」とスカウトメールに軽い気持ちで返信した結果、「あなたは不合格になりました」と、応募したつもりはないのに不合格通知が届くことがあります。また、もし面接に進んでも、先方もあなたと会えば本気でないことがわかるので、不採用になる可能性が高いでしょう。
いずれの場合も、不採用になった会社は、本気で転職しようとする時に大本命になるはずだった会社かもしれません。あとで応募しようとしても、過去に不採用になった履歴があると少なくとも数年間は選考通過は難しいでしょう。貴重な選択肢を、本気ではない時期の安易な行動でつぶしてしまうことになります。
二つ目は、 転職先企業の条件を高く設定しすぎるリスク 。本気でない人は「よほど良い求人があれば転職してもいい」と“頭が高い”姿勢でスカウトメールを閲覧しがちです。これが染みつくと、いざ本気で転職しようと思ったときも、業界・職種・年収などにたくさんの条件をつけてしまい、企業の選択肢が減るわけです。また、この“頭が高い”姿勢は入社後のミスマッチも招きます。転職するときは、「丁稚奉公から勉強します」という低姿勢で入らないと、転職先でのコミュニケーションにも支障が出てきます。
スカウトメールに振り回されないために――企業との接触は転職の軸を決めてから
Q. スカウトメールに振り回されないためには、何を意識したらいいでしょうか?
情報収集期間と、企業に接触する期間を分けて、短期決戦で動くことです。例えば婚活も、婚活サイトになんとなく登録して、軽い気持ちでお見合いをして「合わなかった」を繰り返しているようでは、お見合いが習慣化してなかなか良い相手に巡り合えないのではないでしょうか。同様に、転職もスカウトメールをダラダラと眺めることは弊害を生みます。 本気でないなら、スカウトメールへの返信は慎重に 。企業との接触は、本気モードになってから始めましょう。
Q. 本気モードで動くとき、企業と接触する前にやるべきことはありますか?
新卒時の就職活動と一緒です。「 自分がハッピーに働くためには、どんな環境でどんな仕事をしたらいいのか 」を考えて転職の軸を固め、業界や職種を研究したうえで必要なスキルを調べ、自分にできるのかを見立てます。企業と接触するのはそれからです。
ここで注意したいのは、転職の軸はゼロリセットで考えること。とくに、「辞める理由」と「転職して得たいこと」を混同しないことが大事です。例えば、辞める理由が「上司のパワハラ」の場合、「転職して得たいこと」は「パワハラ上司がいない」だけではないはず。一度ゼロリセットして転職の軸を言語化し、固めていくことです。
それができたら、業界や職種についてリサーチしましょう。この世の中には約150の業界、約400の職種があります。「あれも向いているかも」「これも向いているかも」と考え始めると決められないので、まずは「そもそも、私が生き生きと働ける環境は?」「そもそも、転職して何を得たいのか?」に立ち返って考えてみてください。