ライフハッカー[日本版]とBOOK LAB TOKYOがコラボするトークイベント「BOOK LAB TALK」。

第8回目のゲストは日本を代表するユニコーン企業・PaidyのCEO杉江陸さんです。

座右の書である『Startup CEO』を自ら翻訳し、2021年5月に『スタートアップ・マネジメント 破壊的成長を生み出すための「実践ガイドブック」』(ダイヤモンド社)として刊行した杉江さん。

ライフハッカー[日本版]編集長の遠藤祐子とともに、CEOのみならずすべてのビジネスパーソンが学ぶべき、「ストーリーテリング」の重要性やチームビルディングのポイントを語り合いました。

「あと払い決済サービス」を変革したリーダーの座右の書

累計資金調達額644億円、ユーザーアカウント数600万突破に続き、米ペイパル社による3000億円での買収のニュースが話題を集めた「Paidy(ペイディ)」。

新生フィナンシャルで社長を務めていた杉江さんがPaidyにジョインし、創業者のラッセル・カマー氏と共同経営をはじめたのは2017年11月のこと。

パートナーのラッセル氏と“喧嘩”になったとき、2人が必ず立ち返るのが本書『スタートアップ・マネジメント』だったといいます。

杉江(敬称略):共同経営をはじめる前に、Paidyのアーリー・ステージからの投資家で取締役でもあるメリッサ・グジーがこの本を薦めてくれたんです。

「日本人で大企業出身のあなたと、カナダ人でスタートアップ出身のラッセルではお互いに常識が違う。2人で歩むためには、拠って立つ道しるべを持ったほうがいい」と。

穏やかな話しぶりからは想像できませんが、Paidyに参画した4年前は「つかみ合い、怒鳴り合いも辞さなかった」という杉江さんとラッセルさん。

意見が激しく食い違ったときは、この本に立ち返ってディスカッションをすることで乗り越えてきたと話します。

CEOの仕事は3つしかない

本書のなかで杉江さんが特に関心したのが、「CEOの仕事とは何か」という問いに対する答えだそう。

杉江:「CEOには3つしか仕事がない」と。

1つめはストーリーテリング。2つめはベスト・アンド・ブライテスト(the Best and the Brightest)なチームをつくり、それを維持し、向上し続けること。

そして3つめが、金庫番をしっかりやること。本では「銀行口座にお金がちゃんとあることを確認しろ」という言い方をしていましたね。

この3つだけがCEOの仕事であると、非常に複雑なことを単純化してくれているのですが、そのなかにはすごくたくさんのTipsがある

著者のマット・ブランバーグ氏はスタートアップ経営の達人であり、日本ではまだ珍しい「自分の手を汚しながらすべてを経験してきたタイプの経営者」であると杉江さん。

それだけに、丁寧に丁寧に問題と向き合う姿勢が印象的だと語ります。

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Screenshot: ライフハッカー[日本版]編集部 via Zoom

杉江:シリコンバレーの経営者というのは、皆さんが思っておられるよりももっと、自分の手を汚しながら、あるいは時間や手数をかけながら会社を育てている。そういう生身の実感がある本なんです。

遠藤:すごく手触りのある本ですよね。もがいたプロセスもそのまま書かれているし、休暇の過ごし方、家族との関係、コーチングの方法とか。そんなところまで突っ込んで書かれた経営者向けの指南書は、私も初めて読んだという気がしました。

堅そうに見えて、生き生きとした肉声が伝わるコラムが多いところが面白いと遠藤。

事業の軸足を定めるのは「ストーリーテリング」

本書のなかで、杉江さんが何度も繰り返し読んだというのが「ストーリーテリング」について説かれた第一部です。

杉江:スタートアップも大企業も、結局、誰のどんな悩みを解決しようとして会社やプロダクトデザインをしようとしているのかということが、自分にまず腹落ちしていなければいけない。そこが腹落ちしていないと、事業の軸足が定まりません

ここで杉江さんが例として挙げたのが、日本の家電です。細かな機能がたくさんあって高価なのに、意外と「欲しい機能」がついていない。

それは「あれもこれも、あったら便利かも」と機能を積み上げていくうちに、誰のためのサービスかがわからなくなってしまうからではないかと話します。

杉江:洗濯機なら「壊れない」、「衣類を傷めずにきれいに洗える」という2つがあればいいのに、その2つを見失いながら余分な機能をつけてしまうのが日本の家電の残念なところ。

これはスタートアップにも言えることで、「NOT to do(やらないこと)」が決まらないというのは大きな失敗要因のひとつです。

これを防ぐためにも、チームのメンバー、お客様、投資家に、一貫したストーリーテリングをできるということがどれだけ大切か。それを伝え続けることで、スタートアップの生命維持装置である資金調達が可能になる。また、会社の存在意義も浄化されてきて、「本当に何を変えようとしているのか」がわかってきます。

テスラが電気自動車メーカーではなく「エネルギー革命を起こす」という発想になっていったのも、投資家や従業員と議論を繰り返した結果だと杉江さん。

仕事の軸足を定め、未来のあるべき姿を描くストーリーテリングの重要性を語ってくれました。

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「スタートアップとは、ストーリーテリング」と回を締め括った杉江さん。

「ベスト・アンド・ブライテスト」なチームをつくる採用基準

続いて遠藤が尋ねたのは、杉江さんが得意とする「ベスト・アンド・ブライテストな組織」をつくる上でのポイントです。

杉江採用する順番をつけるとするならば、たぶん自分から一番遠い人を採用したほうがいい。なぜならば、自分1人でできないことができるようになるからです。

一番遠い人っていうのは、同じ常識を持っていない人や、同じバックグラウンドを持っていない人。性別、出身国、育った国、宗教などさまざまな要素があると思います。基本的にそういうものに縛られずに、フラットに議論ができる相手が組織にいたほうが生産性が高まると思いませんか?

遠藤:自分にできないことができたり、自分では想像もしないようなアイデアが出てくるかもしれません。…あえてお聞きしますが、日本では「メンバーの同質性が高いほうが決定が早い」みたいな見方もまだまだありますよね。

杉江:決定は早いかもしれませんね。でも、同じ人が一緒にやる意味、チームでやる意味ってあるんですか、ということなんですね。手分けをするから、あるいは相乗効果が得られるからチームなんです。

私がいつもチームをつくる上で意識しているのは、「今のメンバーから一番遠くにいるであろう人材はどこにいるのだろうか」ということ。

そうすると、その人自身の貢献、その人が連れてくるネットワークや情報の広さみたいなものが飛躍的に広がってくる。もしかしたら、世界の見方がぐるっと変わる可能性が出てくるわけです。

性別、国籍、言語、産業的なバックグラウンドがダイバーシティに富んでいるからこそ、援護射撃を含めてチームに貢献できると杉江さん。特に情報戦に関しては、多様性のあるハイレベルなネットワークを持っていることが必須だと話します。

日本企業の国際競争力が低下してきたといわれるのは、こうした視点の欠如も影響しているのかもしれません。

計画的失敗とそこから這い上がる力こそが必要」という『スタートアップ・マネジメント』のメッセージは、CEOのみならず、すべてのビジネスパーソンに通じるもの。

「日本企業が伸び悩んでいるといっても、日本は、そして東京は間違いなくスペシャルな場所。ここから世界に通用するビジネスがひとつでも生まれれば、次の世代に素敵なバトンを渡せる」という杉江さんの言葉に、明るい展望も感じられたセッションでした。

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Source: Paidy