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『自分という壁』(大愚元勝 著、アスコム)の著者は、愛知県小牧市にある佛心宗大叢山福厳寺住職。YouTubeなどを通じ、多くの人々の悩み相談にも答えているのだそうです。
さまざまな悩みと向き合うなか、多数の現代人がいかに生きづらさを感じているか、いかに苦しい思いを抱えながら日々を過ごしているかを感じているのだといいます。そしてそんななか、あることを強く実感するようにもなったのだとか。
それは、「悩みの根源はすべて『同じところ』から始まっているのに、多くの方はそれに気づいていない」ということだそう。
結論を申し上げますと、心に生じるすべての苦しみは「あなたの頭の中の妄想」から生まれています。じつは、そこに他人は関係ありません。(「はじめに」より)
「実際に、職場の嫌な上司のせいで悩んでいるんだ」というような反論も出てくるでしょうが、その場合、「職場の嫌な上司」は単なるきっかけにすぎないということ。では、どうしたらいいのでしょうか?
端的にいえば、そんなときに役立つのが「仏教」なのだそうです(ちなみに著者は、仏教は「お釈迦様(ブッダ)を信じれば救われる」という宗教ではないと強調しています)。
仏教のテーマはずばり「心」です。自分の心と向き合い、その動きや反応を徹底的に見つめ、感情の移ろいを冷静に分析していくことで、悩みや苦しみを手放し、安定した、おだやかな心を養っていくことを目指しています。(「はじめに」より)
いまから2500年以上前に解かれた教えでありながら、その内容は合理的かつ実用的な内容で、現代人にも取り入れられるものばかり。本書ではその考え方に基づき、「心の壁」を乗り越えるための方法を紹介しているのです。
第4章「『ほしい』の壁の乗り越え方」から、「『どうにもならないこと』に心を使わない」に注目してみましょう。
その不満は誰に向けられたものなのか
「いまの自分が置かれている状況に納得できない」とか、「つねに物足りなさを感じながら生きている」というような“不満”を抱えている方は少なくないはず。
そこには「自分自身の能力が不足している」「望ましい環境が整っていない」などの原因が絡みついているかもしれませんが、いずれにしても楽ではないでしょう。
不満は、内的要因であれ、外的要因であれ、いずれにしても自分の望みがかなえられていないときに生じてくる感情です。
この感情に対処する際に、まず考えていただきたいのは、「不満の対象は誰か?」ということです。
自分に不満があるのか?
他人に不満があるのか?
これは不満という感情の取り扱い方を考えるうえでも、大きなポイントになります。(185ページより)
自分に対する不満とは、「本当は違う仕事をしたい」「やりたいことがあるのに時間が足りない」など、自分の現状に対して自分が満足していないという不満。しかしそれは、悪いものではないと著者はいいます。
なぜなら、それは自分のモチベーションや向上心につながる不満であり、これから成長していくうえでも糧となりうる感情だから。
しかし、他人に対する不満となると話は別。「あの人のこういうところが気に入らない」「部下が自分の思い通りに動いてくれないのでイライラする」というような不満は、当然ながら他人に対して感じているもの。それは、持ち続けていてもいいことはないものであり、自分の成長にもつながらない。それどころか、ストレスにしかならない無駄な感情であるわけです。
こうした感情の裏には、「もっと○○をしてほしい」「なんで○○してくれないんだろう?」というような思いが隠れているもの。もっとも大切に扱われるべき「私」が尊重されず、「どうして私ばかりがこんな思いをしなければならないのか」という怒りを感じてしまっているということです。(184ページより)
「おいしくない食事」を食べ続けていないか
他人への不平不満を持ち続けることは、自分にとってのストレスにしかなり得ません。また、こちらが不満を持っていることを相手が知らなければ、「ただ自分が悶々としているだけ」だということになるでしょう。
「今の職場、上司が全然使えなくてありえない!」「うちの夫は(妻は)家事も育児もなにもやってくれない」「○○さんは、いつも自慢話ばかりで鼻につく」などと、つねに他人への不満ばかり言っている人は、いわば「おいしくないとわかっている食事をずっと食べ続けている」ようなものなのです。(188ページより)
もしも本気でいまの状況をなんとかしたいと思っているなら、不満に感じていることを相手にはっきり伝えて改善できるようにしていくか、「おいしくない食事」から離れる、捨てる、あるいは割り切ることでしか変えることはできないはず。
そもそも自分がどう感じていたとしても、他人を変えるのはとても難しいことです。使えない上司、頼りにならないパートナー、感じの悪い友だちなどに正直な気持ちを伝えること自体は悪いことではないでしょう。しかし、そうすることによって劇的に相手の対応がよくなるということは、あまり考えられないことでもあります。
なぜなら、お互いに「我」があるからです。こちらが「こうしてほしい」と思っていても、相手には相手の「こうあるべき」があるわけです。だからこそ、改善が見込めないことに対して大切な時間を費やしたり、心を消耗させてしまったりするのは、とてももったいないことなのです。
その不満の内容が軽い愚痴程度のものであれば、人に話すことで発散できるかもしれません。気持ちを共有し合うことで、仲間同士の絆が深まることも考えられます。ところが強い不満の場合は、それがストレスとなって心身を蝕んでしまうこともあり得るのです。
そこで記憶にとどめておきたいのが、著者の次のことば。
「どうにもならないこと」に心を消費してしまわないよう、離れる、捨てる、時には割り切るという判断をしていくことも大切だと思います。(190ページより)
「どうにもならないこと」があると、つい「なんとか解決しなければ」と感じてしまいがち。しかしそれが本当に「どうにもならない」のだとしたら、そこに執着し続けることはデメリットになりかねないわけです。したがって、著者のこの考え方を応用してみることも大切なのではないでしょうか?(188ページより)
仏教の思考法を軸とした考え方が中心になっているものの、仏教になじみのない方でも無理なく理解できるはず。「心の壁」を取り払ってより心地よく生きていくために、参考にしてみてはいかがでしょうか?
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