中島聡氏が注目、日本が潰した天才・金子勇氏による「人工知能の超絶技法」とは?Winnyだけではない失われた未来の叡智

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革新的なP2Pファイル共有ソフト「Winny」を公開して京都府警察に逮捕・起訴され、一審で有罪判決。その後、最高裁まで争い無罪が確定したものの、心身の疲労がたたったか43歳の若さでこの世を去った日本人エンジニアの金子勇氏。後年、日本という国に潰された「不遇の天才」として高く評価され、ソフトウェア開発に捧げた人生は映画にもなりました。そんな金子氏が2009年の段階で、「AI分野において、今でも価値のある凄い発明」をしていたことをご存じでしょうか?メルマガ『週刊 Life is beautiful』著者でエンジニアの中島聡氏がわかりやすく解説します。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:金子勇の死と共に失われた人工知能の超絶技法

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

不遇の天才・金子勇氏は、AI分野で「大発明」をしていた

最初にこの話を目にしたときは、「亡くなった人を神格化しすぎじゃないの」ぐらいに軽く見ていましたが、実際に金子勇氏のプレゼンを観たところ、今の人工知能の技術をさらに大きく飛躍させる技術なのかもしれない、と本気で感じるようになったので、今日はその話をします。

ご存知の方も多いと思いますが、金子勇氏は、P2P(ピア・ツー・ピア)の技術を使って人々がファイルを自由に交換できるソフトウェア、Winnyを公開した結果、著作権法違反幇助の疑いにより京都府警察に逮捕・起訴された(2004年5月)、という経緯を持つソフトウェア・エンジニアです。

その後、2006年12月に京都地方裁判所により有罪判決が下されるものの、大阪高裁で逆転無罪(2009年10月)、2011年12月には最高裁で検察による上告が棄却され、無罪が確定したものの、2013年7月6日に急性心筋梗塞のため43歳の若さでこの世を去ってしまいました。長期間に渡る京都府警察との戦いに疲れての結果だと解釈する人も多いようです。

金子勇氏に関して言えば、「実はビットコインの発明者ではないか」という都市伝説があります。発明者が「Satoshi Nakamoto」という日本人の偽名を使っていたこと、(Winnyと同じ)P2Pの技術を駆使していたこと、発明者として大量のビットコイン(約73 billion)を所有しながらいまだに売却していないこと、などから、「金子勇に違いない」と言い出した人がいるのです。

タイミングはピッタリだし(ビットコインが発表されたのは2009年1日。Satoshi Nakamotoが最後にフォーラムで発言したのは2011年4月)、発明者が匿名で発表した理由も、Winnyの経験を考えれば納得できます。

これだけでも、十分な「神格化」ですが、それに加えて、金子勇氏が存命中に、(今、人工知能では主流の)バック・プロパゲーションよりも遥かに優れたニューラルネットの学習法を発明していた、という都市伝説も存在することは知っていました。

最初に目にした時は、頭から否定していたのですが、最近になって「金子勇さんのED法を実装してMNISTを学習させてみた」という記事を読み、そこから辿って金子勇氏によるED法のプレゼンを観たところ、いくつか鋭いことを言っているので、「ひょっとして、これは今でも価値のある凄い発明だったのでは」と思った次第です。

2009年の段階で、ニューラルネットワークの本質に迫っていた金子氏

金子勇氏は、すでにこの段階(2009年)で、ニューラルネットはパラメータ数さえ増やせばどんどんと賢くなる、ことを指摘しており、かつ、(彼独自の手法である)ED(Error Diffusion)法を使えば、主流のバック・プロパゲーションよりも遥かに早くニューラルネットに学習させることができることを指摘しています。

【関連】AIを飛躍的に賢くする「世界モデル」とは何か?天才エンジニアが語るAGI(汎用人工知能)革命の“恐るべきワクワク感”

一番納得できたのは、彼が脳のシミュレーションの観点からED法を思いついた点で、プレゼンの中でも「バック・プロパゲーションは、実際の神経系のシミュレーションとして考えると、あまりにも不自然」と何度も指摘しています。

バック・プロパゲーションは、学習過程で、ニューロンネットワークをあたかも逆方向に流れるかのように誤差情報を拡散している点が、彼が不自然と考える理由です。それに対して、ED法では、ドーパミンのような化学物質が脳の中で使われていることをシミュレーションし、誤差が単に物理的な距離に応じて拡散するアルゴリズムになっています。

ちなみに、ED法については、まだ漠然としか理解できていないので、時間を見つけてちゃんと勉強したいと考えています。私が、今、大学で人工知能の研究をしているのであれば、これを論文のテーマとしても良いぐらいの、面白いトピックです。

【参考文献】

(『週刊 Life is beautiful』2024年4月30日号の一部抜粋です。続きはご登録の上お楽しみ下さい。この号ではメインコラム「MicrosoftがGPUを大量に購入する理由・できる理由」「オープン化したHorizon OSがMetaにもたらすもの」のほか、Teslaの第一四半期決算など旬なトピックの解説コーナー、読者の質問に答えるQ&Aコーナーを掲載しています。初月無料です)

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image by: [追悼]第参回天下一カウボーイ大会 金子勇氏の発表 – YouTube

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