口の中にできるがん―合わないかぶせ物、入れ歯に注意 治らない痛みや粘膜のただれがあれば受診を

ドクター備忘録

中塚 美智子 中塚 美智子

2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんが、先月上顎にできた歯肉(=じょうがくしにく)がんのために亡くなられました。口の中にできるがんは全体の数%に過ぎず、決して多いわけではありません。

 広い意味での悪性腫瘍は「がん」と平仮名ですが、上皮にできる悪性腫瘍の病名は「癌」と漢字で書きます。口の中にできる癌で最も多いのは舌(=ぜつ)癌で、舌のへりの部分によくできます。歯肉癌は歯茎にでき、上顎よりも下顎の方が多いです。そのほか、口の底や頬、口の天井の部分にあたる粘膜などにもみられます。

口の中にがんができるとしみたり、痛みが出たり、出血したりします。歯肉癌では歯茎が腫れる、歯が浮いた感じがする、歯がぐらぐらするといった症状もみられます。口内炎がなかなか治らない、入れ歯が合わなくなってきた、腫れている部分を触ると硬いと感じる時などは、一度歯科医師の診察を受けましょう。進行すると顎の動きにも影響が出て、話したり食べたりすることが自由にできなくなるほか、見た目が悪くなったり、がんが放つ強烈な悪臭のため食事ができない状態になったりすることもあります。

がんの原因として考えられているのは、喫煙や飲酒などのほか、口の中のがんに特有なものとしてかぶせ物や入れ歯などが合わず、常に口の粘膜などを刺激していること、口の中が不潔であることなどがあります。真菌やウィルスに感染している場合はリスクが高くなります。

かぶせ物や入れ歯の金属の部分、歯の先端が鋭くなり、それらが粘膜にいつも当たっている場合、刺激で粘膜が厚く、白くなったり、痛みを伴って赤くなったりすることがあります。これらはがん化することもある白板症(=はくばんしょう)や紅板症(=こうばんしょう)の可能性があり、注意を要します。粘膜の細胞が刺激で傷むのがよくないようですね。

治療としては手術、抗がん剤や放射線を用いる方法、これらを併用する方法などがあります。顎の骨にも影響が及んでいると、その部分にある歯も含めて骨を切除します。広範囲に及ぶと顔の形が大きく変わったり、会話や食事などが難しくなったりすることがあるため、足など体の別の部分から骨を皮膚や血管、筋肉とともに移植した後、入れ歯やインプラントを入れて見た目をよくし、かめるようにします。元のように顎や舌を自由に動かすことは難しいですが、それらの機能を助ける装置を用い、会話や食事などが少しでもできるようリハビリテーションを行います。

口の中は見やすいため、すぐにがんが見つかりそうです。しかし、初期の頃は粘膜の変化だけで症状がないこともあるため、見落とすこともあります。定期的にご自身でも口の中を観察し、気になることがあれば是非歯科口腔外科を受診しましょう。

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