「人工心臓に興味が…」専門用語が飛び出す小学生、あこがれの町工場見学が実現 最後は「ここで働かせて」とお願い!?

竹内 章 竹内 章

人工心臓を手掛ける東京の「安久工機(やすひさこうき)」に入った一本の電話。6月7日の当サイト『「小学生の息子が御社を見学したいと…」→「こりゃ本気の子だ」 とある町工場への1本の電話に「めっちゃええ話」と称賛の声』の記事では、熱いマインドと無限の好奇心を秘めた小学生と彼の思いに応えようとする大人たちを紹介しました。そして今夏、少年が待ち焦がれていた見学が実現しました。一家と安久工機の人たちの出会い、そして新たな展開へ。胸熱のものづくりドラマが始まりました。 

まずはこれまでのあらすじから。今年春、安久工機に見学希望の電話→「息子が人工心臓に興味を持っていて…」と電話の向こうのお母さん→話を聞いた田中宙さんは質問のレベルに驚愕→社会の教科書に掲載された田中隆社長らの開発も「息子」さんはすぐに察知→「すごい子だ」と宙さんらはと、工場見学の日に備え余念がないーという流れです。 

「ようBEN!」と言いそうに

北陸で暮らす一家が、車で東京都大田区の多摩川近くの安久工機を訪れたのは7月中旬。東京五輪の開催を間近に控えた晴天の週末でした。工場の玄関先で緊張の面持ちで直立する初対面の小学生。ちなみに、宙さんや隆さんら田中さん一家は、「BEN君」と呼んでいます。「三尖弁・僧帽弁の試作品と開発経緯を知りたい」という宙さんの度肝を抜いた質問から命名したそう。「ようBEN!」の言葉が喉元まで出かかった宙さんが遠路をねぎらうと、BEN君は疲れた顔も見せず、事務所の展示棚の試作品を見つけ、「おぉ!」と目を輝かせたそうです。

BEN君は分厚いファイルを何冊も抱えており、たくさんのスケッチや図面が入っていました。「12年そこそこの彼の頭の中にこんな膨大で具体的なアイデアがあったとは」と驚く宙さんをよそに、職人気質の隆社長は「こう動くの?難しそうだけど」と理詰めで応対します。よき師に出会ったと感じたのでしょうか、顔がほころぶBEN君。人工心臓の試作品を見て、身を乗り出して話をするようになりました。早稲田大学先端生命医科学センターも見学。人工臓器の世界的パイオニアである梅津光生さんの案内で、最新の遠隔手術施設や様々な機器であふれる研究室を巡り、写真でしか見たことがない補助人工心臓の重みと感触を肌で感じたそうです。

BEN君はどんな小学生なのでしょう。「ちゅうさん」と呼ばれている宙さんは、試作品を分解して興味深げに見る様子から「知りたい」という気持ちを強く感じたそうです。人の話を黙って聞くことが多いのですが、頭の中で咀嚼して知識として落とし込んでいることがうかがえたそうです。「彼は『梅津先生はこう言ってた』と話すのですが、我々大人が『そんなこと言ってたっけ?』と思うような細かいこともよく覚えていました」と振り返ります。かと思えば、妹思いのしっかりとしたお兄ちゃんの一面も。遊んだり食事をしたりするときなど、世話を焼きすぎるでもなくちゃんと妹の様子を見ているなと感じたそうです。

 「ここで働かせてください!」「えっ?」

2日間の日程が終わり、別れの時間になると、お母さんにせかされたBEN君の口から「ここで働かせてください」という、ジブリ映画のあのせりふが。冗談交じりのこの言葉には、中学生になっても研究を進めたい、夏休みには安久工機でお手伝いでも雑用でもなんでもするから人工心臓やモノづくりを学ばせてほしい、という意味が込められていたそうです。驚く宙さんは「今日からお前の名はBENだ!」と湯婆婆のような返しができませんでしたが、もちろん大歓迎です。

BEN君は大人たちにどんな印象を残したのでしょうか。宙さんによると、隆社長は「よく勉強していて自分なりのアイデアもある」とほめていました。BEN君のスケッチやアイデアの中には「経験的に難しい」と感じるものもありましたが、「自分で気づいたり失敗したりする機会を奪ってはいけない」とあえて口にしませんでした。梅津さんは「聞きたいことあったらまたいつでもおいで」と話したそうです。

宙さんが感じたのは、「一家とは一生の付き合いになるんだろうな」という直感でした。会った瞬間から気を遣う必要がない親戚のような感覚があり、BEN君のお母さんや宙さんのお母さんも同じようなことを感じたそうです。

一家が帰って数日後、BEN君から見学レポートがLINEで届きました。そこにはには「(見学を通じて)僕のやりたいことがわかった」とあり、作りたいモノの構造に関する具体的なアイデアもあったそうです。

「見学後の感想としてこれ以上うれしいものはないですね」(宙さん)

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