“2人の孤独死”の現実 「胸が張り裂けそう」76歳夫は言い残した
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今年1月31日、社会福祉士が東京都板橋区のアパートの一室をノックした。しかし、何度呼びかけても応答がなく、社会福祉士の通報で駆け付けた警察官が室内に入った。屋内では夫(当時76歳)が風呂場で、妻(同73歳)は居間で倒れていた。2人とも既に亡くなっていた。警視庁によれば、妻は病死だった可能性が高く、その直後に夫が自死したとみられるという。遺書は残されていなかった。
2人暮らしの親子や夫婦らが、屋内でいずれも亡くなった状態で発見されるケースがあとをたたない。死因は病気や自死、無理心中などで、後追い自殺とみられる例もあった。最近10年間では東京都内だけで117世帯234人が確認された。彼らの最期を知ろうと、関係者を訪ねた。
年金と夫の収入でやりくり
夫婦の知人らによると、亡くなった2人は約10年前にこのアパートに引っ越してきた。間取りは4畳半と6畳の部屋がある「2K」で家賃は月額6万円。同じ地区からの転居で、夫婦にとっては住み慣れた地域だった。
2人は仲の良い老夫婦として知られていた。妻は認知症の兆候があったが、すし職人として働く夫が支えた。元々3人家族だったが、身体障害のある一人息子は30代で亡くなり、アパートの部屋には息子の遺影が飾られていた。妻は、息子の思い出話を楽しそうに知人に話したという。
夫婦は夫の収入でやりくりした。夫は派遣社員として、都内の複数の店ですしをにぎった。そのほか、夫に2カ月に1回支給される10万円の年金と、こつこつ蓄えてきた貯金があった。
同じアパートで隣の部屋に住んでいた70代男性は約3年前、「うちの人が握ったのよ」と妻がうれしそうにすしを差し入れてくれたことを覚えている。「決して派手な生活ではなかったが、仲むつまじい夫婦だった」と振り返る。
コロナで生活苦、退去求められ
そんな夫婦の生活の歯車が狂い出したのは、新型コロナウイルスの感染拡大で初の緊急事態宣言が発令された2020年春以降とみられる。
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