【動画】求愛ダンス踊るクモの新種が7種見つかる

派手なダンスで人気の「孔雀グモ」、絵のような模様があるものや白くてモフモフも

2016.06.10
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ピーコックスパイダーのオスが見せる魅惑のダンス
新たに発見された7種のピーコックスパイダー。そのうち6種の派手な体を駆使して踊る独特のダンスを、近接撮影の映像がとらえた。(Video footage by Jürgen Otto.)

 クモ好きなら思わず踊り出したくなるニュースだ。オーストラリアのクモ学者が、鮮やかな色をまとったピーコックスパイダーの新種を7種発表した。ハエトリグモの仲間でピーコック(孔雀)の名を持つ彼らは、派手なお尻とディスコダンスのような求愛儀礼が有名だ。(参考記事:「「孔雀グモ」、派手な求愛は命がけの進化の産物」

 2013年以来、在野のクモ研究家であるユルゲン・オットー氏とデヴィッド・ノウルズ氏は、ノウルズ氏が見かけながらも命名するまでに至らなかったピーコックスパイダーを、新種として正式に記載することに精力を傾けてきた。(参考記事:「クジャクみたいに派手なクモの新種、3種を発見」

 2015年暮れ、調査に出かけた2人は夏の日光が照り付ける中、オーストラリア西部にあるジャスパー湖に沿って歩いていた。「クモが見つかるとは思っていませんでした。高温を避ける生物ですから」とオットー氏は振り返る。

 だが、“クモハンター”の2人にうれしいサプライズが訪れた。砂の歩道に沿って何かがそろそろと歩いているのをノウルズ氏が見つけ、オットー氏に知らせた。

 オットー氏はEメールでの取材に対し、「クモの背中に目を引く模様があるのに気付きました。明らかに珍しいもので、玉虫色に光る部分もありました」と語った。「大きさはピーコックスパイダーとしては平均的で、Maratus属の特徴が見られました。脚の長い毛や、目の後ろにある面白い斑点がそうです。もっとも、これらの細かい点は写真を撮ってから分かったのですが」

新種の1つ、Maratus bubo。ワシミミズクのような模様にちなんで命名された。(PHOTOGRAPH BY JURGEN OTTO)
新種の1つ、Maratus bubo。ワシミミズクのような模様にちなんで命名された。(PHOTOGRAPH BY JURGEN OTTO)
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 のちにオットー氏は、そのクモをMaratus vespaと名付けた。 vespaはラテン語でスズメバチを意味する。その後、同国の南海岸と西海岸で2度調査した結果、2人はその時点で名前が付いていなかった種を新たに6つ確認。ハエトリグモの専門誌「Peckhamia」編集長のデビッド・ヒル氏とオットー氏が著者となり、計7つの新種が5月22日付で同誌に発表された。

 この発見により、ピーコックスパイダーは全部で48種になった。オットー氏とヒル氏は論文で、このほかにMaratus属のクモ16種が検討中であり、この属に正式に加えてよいかどうか、さらに研究が必要だと付け加えている。(参考記事:「「青仮面」の新種のクモを発見」

SNSや動画サイトで大人気

 M. vespa以外に2人が発見した6種には、M. albus、M. bubo、M. lobatus、M. tessellatus、M. vultus、M. australisと学名が付けられた。M. australisはこれまでにも撮影されていたが、名前は付けられていなかった。

 命名に際し、オットー氏とヒル氏はそれぞれの外見からラテン語の単語を選択。スズメバチに似ているM. vespaのほか、M. buboはワシミミズクの属名から取り、ラテン語で「白い」という意味のalbusを、白い綿毛に覆われている M.albus に使った。

 この方式にすると、「観察者が注目した点が分かります」とヒル氏。

別の新種Maratus albusの学名は、雪のように白い綿毛に由来する。(PHOTOGRAPH BY JURGEN OTTO)
別の新種Maratus albusの学名は、雪のように白い綿毛に由来する。(PHOTOGRAPH BY JURGEN OTTO)
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 他のピーコックスパイダー同様、かわいらしい7つの新種も脚は8本で、目は前側に並び、全身に毛が生えている。色はさまざまで、茶色と白の模様入りコートを見せびらかす者もいれば、虹色にきらめく鱗片を震わせる者もいる。(参考記事:「脚をチラッと見せてメスを誘うクモを発見」

 オットー氏によれば、研究者はピーコックスパイダーの種を判別するのに、オスが持つ扇のような部位の形や色を観察する必要がある。扇がない場合もあり、頭部の色や脚の飾りも判断材料になる。しかし、種の判別に使える大きな要素は何よりも求愛ダンスだ。

 通常、彼らの求愛ダンスではオスが数パターンの動きをする。交尾相手になりそうなメスの気を引くため、何通りもの動作や体の部位を誇示するのだ。(参考記事:「メスを縛って交尾有利に、クモで判明」

 例えばM. vespaのオスは、「こっちにおいで」と言うように玉虫色に輝く扇を左右に振るショーを演じる。ヒル氏によると、メスが数ミリの距離からオスをじっと見つめていれば、M. vespaである証拠だという。

「他の種ではこれまで見たことのない行動です」とオットー氏は言う。「このとき、メスは間違いなくオスのダンスに魅了されているのです」

オスのMaratus tessellatus(右)が、メスの気を引こうとショーを披露する。(PHOTOGRAPH BY JURGEN OTTO)
オスのMaratus tessellatus(右)が、メスの気を引こうとショーを披露する。(PHOTOGRAPH BY JURGEN OTTO)
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 そして、魅了されているのはピーコックスパイダーのメスだけではないようだ。この小さなクモが姿も動きもキュートで、クモなのに不気味に見えないことから、人間たちの間でも人気が高まっている。

 オットー氏は学者としては実はダニの専門家だが、ピーコックスパイダーにも情熱を注ぎ続けている。ピーコックスパイダーだけを扱うFacebookページは6万6千以上の「いいね!」を集め、YouTubeに開設したピーコックスパイダーのチャンネルには閲覧回数が540万を超える動画もある。

「ハエトリグモのファン層はとても厚いんです」とオットー氏。「ピーコックスパイダーたちを見ていると、いつも小動物を思い浮かべます」

 ヒル氏によれば、クイーンズランドなどオーストラリアの他の地域は現在、ピーコックスパイダー調査の空白地帯となっている。今後、こうした地域で新たな発見があるかもしれないという。

 オットー氏も、「未発見の新種がまだいるはずだと信じています」と期待を寄せている。

文=Elaina Zachos/訳=高野夏美 

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