1997年、ドイツ、ベルリンの科学捜査官が、ある珍しい事件に関する論文を学術誌「Forensic Science International」に投稿した。事件の夜、31歳の男性が母親の家の裏庭にある、物置を改装した小屋にこもっていた。彼はそこで飼いイヌのジャーマン・シェパードと一緒に暮らしていた。
午後8時15分頃、小屋のほうで銃声が鳴ったのを、近隣の人々が耳にした。
45分後、その男性が拳銃で口を撃ち抜いて死んでいるところを母親と隣人たちが発見した。男性の手にはワルサーの拳銃が、テーブルの上には遺書が置かれていた。
その後、警察官がさらに驚くべきものを発見した。彼の顔と首の大半は消え失せ、傷の縁には歯型が付いていた。
理由はすぐにわかった。シェパードが飼い主の体の組織を吐き戻したのだ。その中にはひと目でヒゲとわかる毛の生えた皮膚も含まれていた。
イヌは生き延びるために飼い主を食べたわけではない。なぜなら、警察官が到着したとき、床には半分まで餌が入ったイヌ用の皿が置かれていたからだ。だとすると、嫌な考えが頭に浮かぶ。結局のところ、イヌは彼にあまり忠実ではなかったのだろうか。
2023年12月に学術誌「Forensic Science, Medicine and Pathology」に発表された論文にある通り、ペットが死んだ飼い主の体を食べる事件が論文になるケースは少なく、どのくらいの頻度で起こっているのか正確なところはわからない。
だが、科学捜査関連の学術誌には、そうしたケースが数十件報告されている。これらの記録からは、ペットは私たちを食べるものなのか? いずれにしろ私たちは本当に単なる餌になるのか? など、ほとんどの飼い主がまじめに考えたくもないような状況が見えてくる。
同時に、科学捜査における動物行動学からは、そうした疑問への答えや、ペットの視点を欠いていると、彼らの行動を私たちがどれほど誤解してしまうのかも明らかにしてくれる。ここでは、科学捜査の証拠からこれまでにわかったことを紹介しよう。
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