世界最大のオアシス、国境を隔てた水源を守れるか

アフリカ、ボツワナの湿地帯は、アンゴラから流れ込む水で潤っていた

2017.10.30
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アフリカスイギュウが蹴り上げ、糞(ふん)を残すことで土壌は肥沃になる。オカバンゴでは生物が自然景観を形づくり、自然景観が生物を支えている。
PHOTOGRAPH BY BEVERLY JOUBERT,NATIONAL GEOGRAPHIC CREATIVE

 アフリカ南部の国ボツワナに広がる湿地帯オカバンゴ・デルタ。ここはカラハリ盆地に閉じ込められた内陸デルタで、水が途絶えた先には砂漠が広がっている。

 そう、ここは世界最大のオアシスと言ってもいい。

 ゾウ、カバ、ワニ、アフリカスイギュウ、ライオン、シマウマなどが暮らす野生の楽園だ。鳥の種類も数も驚くほど多い。その豊かな自然は年間で数百億円もの観光収入をもたらしている。それにしても、この膨大な水は、どこから来ているのだろう?

 デルタの水はほとんどすべて、ナミビアを挟んで北に位置するアンゴラからもたらされる。デルタにも雨は降るが、降水量は少ない。一方、アンゴラ中部の高原地帯では、年間降水量が約1300ミリとカラハリ盆地よりはるかに多い。高原に降った雨は、クイト川とクバンゴ川に流れ込み、合流してオカバンゴ川となり、オアシスへと流れてゆく。

 このように複数の川が別々のタイミングで水を供給することによって、オカバンゴ・デルタは毎年3回増水し、ほかの大半の淡水の湿地よりも水没している期間が長い。定期的に流れ込む淡水が大地を潤し、ゾウやカバの糞で肥沃になった土地が多様な植物を育む。こうした要素すべてが、オカバンゴ・デルタを野生生物の宝庫にしているのだ。もし、この水の供給が途絶えれば、オカバンゴ・デルタは干上がる。ゾウもカバもいない、今とはまったく違う世界となってしまうだろう。

 この暗い見通しが現実になる可能性がある。水の供給源となっているアンゴラ南東部では現在、開発や人口増加が進んでいて、今後さらに拍車がかかると予想されるからだ。

 最大の難題は、デルタの複雑な水系を理解するだけでなく、クイト川とクバンゴ川をほぼ現状のまま保全するよう、アンゴラ政府と国民を説得することだ。木の伐採や炭焼き、狩りのための野焼き、密猟、化学肥料を大量に使う農業開発、鉱業開発などを規制しなければならない。それは差し迫った課題であり、そう簡単にはいかないだろう。

 そのために今、目立たないながらも、クイト川とクバンゴ川に高い関心を寄せ始めた人々がいる。その一人が、南アフリカの生物学者スティーブ・ボイズだ。彼は各国の科学者や政府当局者たちを集め、ナショナル ジオグラフィック協会の支援を受けて「オカバンゴ原生自然プロジェクト」を立ち上げた。プロジェクトの参加者たちは、調査や保護活動を精力的に進めている。この活動にはオカバンゴ・デルタ、さらにはアンゴラ南東部の現在と未来がかかっている—それが彼らの共通の思いだ。

「もう、残された時間はあまりありません」。2017年初めの調査に同行したとき、ボイズはそう言った。

※ナショナル ジオグラフィック11月号特集「アフリカ南部 巨大湿原の未来を守る」では、オカバンゴ・デルタの生態系を守る取り組みを紹介します。

David Quammen/National Geographic

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