小さな肉食動物クズリに迫る危機

絶滅危機を乗り越えたが、生息域の縮小という新たな脅威に直面

2019.07.31
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特集フォトギャラリー3点(画像クリックでリンクします)
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米国モンタナ州のスワン渓谷で、シカの死骸をあさるクズリ。自動撮影装置でとらえた。山奥にひっそりと生息する肉食動物で、寒冷な自然環境に適応している。 非営利組織「スワン・バレー・コネクションズ」の協力を得て撮影 PHOTOGRAPH BY STEVEN GNAM

 クズリ(学名 Gulo gulo)は、北極圏と亜北極地帯、北半球の山岳地帯に生息するイタチ科の肉食動物だ。たった1匹で成獣のトナカイを倒すこともできるし、オオカミやヒグマから獲物を横取りした話を聞いたこともある。クズリは小さな体に似合わず、しぶとく大胆な動物だ。行動範囲は250~1300平方キロ以上に及び、その広大な縄張りを休む間もなくパトロールしながら、ライバルに目を光らせているのだ。

クズリが直面する大きな問題  

 米国とカナダに生息するクズリは現在、さまざまな脅威に直面している。人間の活動が山間部に及んでいることが主な原因だが、これからの最大の脅威は温暖化だ。クズリは年間を通して寒冷で、積雪期間の長い高山の環境に特に適応し、依存している。極地の温暖化は加速しているが、ロッキー山脈など標高の高い地域でも、気温の上昇は著しい。予測通りの気候変動が続けば、米国本土のクズリの生息域は2050年までに3分の1が、今世紀末までに3分の2が消失しかねない。

 グレイシャー国立公園は米国でクズリの生息密度が最も高い地域だ。それでも、クズリは縄張り意識が強く広大なテリトリーを必要とするため、面積が4000平方キロもある公園でも、生息できるクズリは30〜40匹ほどに限られる。つまり、1カ所の保護区だけでは、種の保存に十分な個体数を維持することはできないのだ。将来にわたって近親交配を避け、環境の変化に対処するためには、各個体群がより広大な地域内で別の個体群と接触する必要がある。

 生物学者はかつて、野生動物を守る最善の策は公園や保護区を手つかずのまま残すことだと言っていたが、今では、保護区と保護区をつなぐ一帯も自然のまま保護しなければならないと言うようになった。クズリのような種が広大な地域を移動し、しっかりと繁殖し、環境の変化に適応できるようにするためだ。保護活動は一筋縄ではいかない。でもクズリのようなしぶとさをもって取り組むことが大切なのだ。

※ナショナル ジオグラフィック8月号「しぶとく生きるクズリ」では、温暖化が進行する今、生息域の縮小によって新たな脅威と闘うクズリの現状をお伝えしています。

文=ダグラス・H・ チャドウィック/生物学者

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