ヨーロッパのアドリア海を取り巻く山岳地帯は、太古に失われた大陸の痕跡かもしれない。
9月3日付けで学術誌「Gondwana Research」に発表された論文によると、これらの山々は、太古に崩壊した、グリーンランドほどの大きさの大陸の残骸だという。研究では、過去2億4000万年にわたる地中海のプレート変動の歴史を詳しく再現することに成功した。
研究チームはこの大陸を「大アドリア大陸」と名付けた。大アドリア大陸は、まず超大陸から分離して形成された。しかし、複数のプレートが容赦なくぶつかり合うなか、この大陸は、数カ所の沈み込み帯に引きずり込まれた。(参考記事:「【解説】地球のプレート運動、14.5億年後に終了説」)
大アドリア大陸は、地球の奥深くに沈み込む際、上に重なったプレートによってその最上層を削り取られた。まるで巨人が巨大なリンゴの皮を剥くような具合だ。こうして削り取られた残骸が、イタリアの背骨と呼ばれるアペニン山脈のほか、トルコやギリシャ、アルプス、バルカン半島の山々を形成する礎となった。
一方で、大アドリア大陸の一部は沈み込むことも削り取られることもなく、残った。その名残は現在、イタリアのブーツのかかと部に見られ、ベネチアからトリノにかけて散在し、クロアチアのイストリア地方でも確認できる。つまり、失われた大陸の断片は絶好のリゾートとなっているわけだ。
断片になった地質学的な過去を再構築することが、現在を知る鍵になると、今回の論文の著者であるオランダ、ユトレヒト大学の地質学者ダウエ・ファン・ヒンスベルゲン氏は言う。
時計の針を巻き戻す
三畳紀(2億5000万年前~2億130万年前)以降の地中海の大陸移動を再現するには、重大な課題がいくつかあった。これまでもかなりの時間をかけて調べられてきたが、地質のジグソーパズルは非常に難解で、詳細な分析は困難だった。(参考記事:「地中海で新たな沈み込み帯を発見か」)
「地中海は、めちゃくちゃなのです」と米テキサス大学ダラス校のプレートテクトニクスの専門家ロバート・スターン氏は話す。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。
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