米国アラスカ州中部のタナナ川沿いに広がるクロトウヒの森。昔、このあたりの地面は固く、氷に覆われていた。だが、温暖化による雨と融雪のため、今では柔らかくぬかるんでいる。
米国地質調査所(USGS)のミリアム・ジョーンズ氏と米コロラド大学北極高山研究所のメリット・ツレツキー所長は、この森で木々が傾き、曲がり、そして倒壊するのを長年にわたり観察してきた。
気温の上昇により北方の永久凍土が融解し、温室効果ガスが発生して、地球温暖化を加速させる可能性があることは何十年も前から知られていた。
けれども、このほどツレツキー氏とジョーンズ氏らの専門家チームは、まっすぐ立っていない木が多いアラスカのいわゆる「酔っぱらった森」の研究から、新たな事実をつかんだ。永久凍土には氷を特に多く含む部分があって、そうしたところが融解すると、従来考えられていたより温室効果ガスが多く放出されることがわかったのだ。(参考記事:「気候変動で「酔っぱらう」木々」)
「急速融解」と呼ばれるこのプロセスが起こるのは、おそらく北極地方の永久凍土全体の5%程度だ。しかし、ツレツキー氏が率いる研究チームが2月3日付けで学術誌「ネイチャー・ジオサイエンス」に発表した論文によると、この小さな部分の融解により、永久凍土の地球温暖化への影響は、従来考えられていた規模の倍以上になる可能性があるという。
「小さな変化ですが、影響は大きいのです」とツレツキー氏は言う。
科学者たちはこれまで永久凍土の「急速融解」をあまり警戒してこなかった。永久凍土から放出される温室効果ガスの量は、私たちが石炭、石油、天然ガスを燃やす際に発生するガスの量より少ない。米国国立大気研究センターの上級科学者デビッド・ローレンス氏によれば、永久凍土の融解は人間活動による気候変動を10%ほど悪化させるとこれまで推測されていた。(参考記事:「【動画】シベリアにできた巨大な穴、止まらぬ拡大」)
ところが、今回の研究結果によると、その見積もりが倍になる恐れがある。これは重要だ。なぜなら、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が、最悪の温暖化を阻止するために、人類が化石燃料の使用をやめるべき時期を推定したときに、永久凍土の融解が十分考慮されていなかったからだ。
別の言い方をすると、地球温暖化を1.5〜2℃にとどめるためには、私たちは、これまで考えていたよりも短期間で再生可能エネルギーへの転換を進めなければならないことになる。
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