ライオンを数えるのはなぜ難しいのか?

これまでの推定は「科学というより憶測に近い」と研究者

2020.09.08
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ウガンダ、クイーン・エリザベス国立公園の木のまたで休むメスのライオン。ライオンは急激に減少しており、その保護の取り組みには、個体数の正確な推計が不可欠だと研究者らは言う。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER BRACZKOWSKI)
ウガンダ、クイーン・エリザベス国立公園の木のまたで休むメスのライオン。ライオンは急激に減少しており、その保護の取り組みには、個体数の正確な推計が不可欠だと研究者らは言う。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER BRACZKOWSKI)

 ライオンは恐ろしい勢いで減っている。それは確かだ。アフリカでは過去120年間に、かつての生息域の9割以上から姿を消した。この25年だけを見ても、個体数はほぼ半減している。

 では現在、アフリカには何頭のライオンが残っているのだろうか? その答えは驚くほどあいまいだ。2万頭というのが最もよく引用される数だが、ライオン研究者の多くは必ずしもこの数字に納得していない。

 この推定頭数は「科学というより憶測に基づくところが大きい」と、英オックスフォード大学のライオン研究者ニック・エリオット氏は言う。「アフリカにいるライオンの頭数は、よくわかっていません」

クイーン・エリザベス国立公園で、オスのライオンに新しいGPS首輪を取り付ける研究者とレンジャー。この首輪によって得られるライオンの位置情報は、牧場で働く人との衝突を避けるのに役立ち、研究の指針にもなる。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER BRACZKOWSKI)
クイーン・エリザベス国立公園で、オスのライオンに新しいGPS首輪を取り付ける研究者とレンジャー。この首輪によって得られるライオンの位置情報は、牧場で働く人との衝突を避けるのに役立ち、研究の指針にもなる。(PHOTOGRAPH BY ALEXANDER BRACZKOWSKI)

 ライオンは、夜間に活動することが多く、周囲の景色に溶け込み、生息密度も低い。とりわけ密猟が横行している地域では、ライオンは人間から隠れようとしがちだ。ライオンを数えることが難しいのには、そうした理由がある。

 それでも、ライオンを効果的に保護管理するには、より正確な頭数把握が欠かせない。推定頭数の経年変化について信頼できるデータがあることで、どこでどれほど減っていて、どれほど差し迫った問題なのかがわかり、その原因を考えることもできるからだ。

 問題を解決するには、まず問題の存在を知り、その内容を理解する必要があると、オーストラリア、グリフィス大学回復保全研究所のアレクサンダー・ブラツコウスキー氏は言う。

 そこでエリオット氏やブラツコウスキー氏らは、ある比較的新しい推定方法をライオンに適用することを、5月29日付の学術誌「Frontiers in Ecology and Evolution」に発表した論文で提案した。

「空間明示型標識再捕獲法(SECR)」と呼ばれるこの方法は、すでに他の大型ネコ科動物を数える際にはよく用いられている。この方法を使えば、野外観測の結果から、個体群の推定規模や密度、移動パターンをより詳細に把握できるとブラツコウスキー氏は説明する。

次ページ:SECRを使用しないのは「チャンスを逃すこと」

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