『ブラックパンサー』や『アベンジャーズ』シリーズなどの映画を見て、登場人物が着るビブラニウムスーツに息をのんだ人もいるだろう。あれは最もクールな防護服だ。
ただし、動物たちがもつタフなよろいにはかなわない。そうした動物たちの殻、外骨格、うろこなど、実在の“防護服”はどれほど強いのだろうか。
科学者らが防護服を作る上で実際に「バイオインスピレーション」を得た動物を紹介しよう。
アルマジロ
銃弾を跳ね返したという話もあるが、アルマジロは防弾仕様の生物ではない。
アルマジロの甲羅は、皮骨と呼ばれる、皮膚の中で作られる無数の板状の骨でできている。ゆるやかに結合した皮骨が、毛髪や爪、角などを作るたんぱく質であるケラチンの層に覆われた構造により、体の柔軟性が保たれている。国際自然保護連合(IUCN)アリクイ・ナマケモノ・アルマジロ専門家グループのマリエラ・スペリナ委員長は、メールでそう説明してくれた。
「アルマジロの装甲は、捕食者から身を隠すときに潜り込む低い木のとげから体を守っています」とスペリナ氏は言う。しかし、イヌや猛禽類のような捕食者の手にかかれば、このよろいは簡単に破壊されてしまう。アルマジロのよろいは、防弾チョッキというよりは硬いスーツケース程度のものだ。
それでも、カナダのマギル大学の研究者らは、アルマジロの装甲の秘密を発見した。1枚のガラス板と、同じ厚さの板を小さな六角形に細かく分割して並べたものとを、柔らかな土台の上に置いて針で刺して比べた場合、細かく分割したときのほうが最大で70%も穴が開きにくかった。つまり、無数の小さな皮骨が結合する構造は、アルマジロの装甲の強化に一役買っているというわけだ。
アワビ
この腹足綱(ふくそくこう)の軟体動物は、「レンガとモルタル造りの構造物」のような貝殻を身にまとっていると、米カリフォルニア大学サンディエゴ校ジェイコブズ工学部のマーク・マイヤーズ氏は言う。マイヤーズ氏は20年前から、米陸軍の防護服開発のために動物をモデルとする研究を行っている。
アワビの貝殻は、炭酸カルシウムの板が無数に重なり合ってできている。その1枚の厚さは人間の髪の太さの200分の1ほど。本来、炭酸カルシウムは砕けやすいが、アワビの貝殻ではこれがレンガのように積み重なることで、並外れた強度を獲得している。板をつなぎとめている接着剤が、“モルタル”に当たるたんぱく質だ。しかも、たんぱく質のおかげで板同士が横滑りし、受けた衝撃を吸収するため、貝殻は割れにくい。
マイヤーズ氏らのチームは、アワビの貝殻の構造がどのように機能しているのかをさらに解明することで、より防弾性の高い防護服を軍や警察向けに開発できると期待している。
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