インドで精神修養法として発祥したヨガは、今や世界中に広まっている。米国では、健康維持法の一つとして奨励され、悟りを開いたり、さまざまな病気を治療したりする方法としても注目されている。
ヨガの健康効果を証明するのは難しい。大半の研究は被験者が少な過ぎて結論を出せない。政府や製薬会社などの業界による助成がないことが大きな理由だ。
米ハーバード大学の神経科学者で、ヨガの講師も務めるサト・ビル・シン・ハルサは、ヨガの効果の解明はまだ道半ばと認める。「それでも、信頼性を実証してきたといえると思います」。ハルサは不眠症やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、不安障害、慢性ストレスに対するヨガの影響を研究し、なかでも慢性ストレスに効く有力な証拠を見つけている。
科学で見えてきたヨガの効果
ハルサは1971年にヨガに取り組み始めた。最近では、エピジェネティクス(後天的な遺伝子の働きの変化)や、ニューロイメージング(脳機能の画像化)の研究によって身体と脳の相互作用の解明が進み、ヨガの効果も明らかになりつつあると、熱い口調で語ってくれた。つまり、ヨガのもつ力は実践者の単なる思い込みではないということだ。
ノルウェーで行われた調査では、10人の被験者の血液を、ヨガを2時間行う前と後に採取して分析した。すると、ヨガの後では体内を循環する免疫細胞内の遺伝子が著しく活性化していることがわかった。また、乳がんを克服した患者を研究する米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のチームは、多くの疾患の原因とみられる炎症を引き起こす遺伝子の発現をヨガが抑制することを突きとめている。
また米国立衛生研究所によると、脳の灰白質は通常、加齢とともに減少するが、長年ヨガを実践してきた人々は年齢の割には進行していないという。さらに、ヨガの実践者は、記憶や感情の抑制をつかさどる海馬や、集中力や自己認識機能に関わる部位など、いくつもの脳の領域が一般的な人よりも発達している。
ヨガの効果はこれらの研究によって科学的に裏付けられてはいるが、古代の精神修養法であるヨガが現代のせわしないストレス社会で人気なのは、そうした理由からではない。「ヨガは人々を根本から幸せにして、現代社会を生きる力をくれます」と、ハルサは言う。
※ナショナル ジオグラフィック1月号「ヨガで心の安らぎを」では、痛みやストレスを解消する方法として、世界中の多くの人々が実践しているヨガの影響について取り上げます。