米国で新型コロナウイルスワクチンの接種を完全に終えた人の割合は、全人口の48%にとどまる。ワクチンの確保に苦慮している国も多い。そんな中、公衆衛生の専門家らは、既知の新型コロナウイルスのうち最も危険で広まりやすい(伝播性が高い)変異株であるデルタ株が、世界中で患者や死者の急増を引き起こすのではないかと懸念している。
2021年3月にインドで初めて確認されたデルタ株は、すでに米国でも主流となっており、米疾病対策センター(CDC)の最新データによると、6月20日〜7月3日(2週間)の新規感染に占めるデルタ株の割合は51.7%に上る。また、デルタ株は90カ国以上に広がっており、インド、英国、ロシア、イスラエル、シンガポールをはじめとする多くの国で、最も優勢な株となっている。
デルタ株は英国で最初に発見されたアルファ株(従来株より約50%伝播しやすい)と比べて、さらに60%広まりやすいとされている。「これはスーパースプレッダー変異株であり、そこが厄介なのです」と語るのは、米スクリプス・トランスレーショナル研究所の創設者で所長のエリック・トポル氏だ。
トポル氏によると、デルタ株は免疫系から逃れられる特徴をもっているという。「そのうえ、これまでに確認されたものの中で最も伝播しやすいのです。これは非常に良くない組み合わせです」
米国では現在、新型コロナの新規感染に占めるデルタ株の割合が半分を超えており、6月13〜19日の26%から増加している。なかでもワクチン接種率が低い米国中西部や山岳部の一部では、ウイルスサンプルの遺伝子解析の結果、デルタ株が80%以上を占めることが示唆されていると、CDCのロシェル・ワレンスキー所長は7月8日の記者会見で述べた。
ワレンスキー氏はさらに、感染率の高い米国の約170の郡では、住民の40%以下しかワクチンを接種していないというデータを示した。過去数カ月のデータによると、米国で新型コロナ感染症により死亡した人の99.5%はワクチンを接種していなかった。「つまり、簡単で安全な注射で死亡を防ぐことができたということです」と氏は付け加えた。
事実、ワクチンの完全接種にはデルタ株による重症化を防ぐ効果があることを示すデータがある。7月7日付けで医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載された研究によると、米モデルナおよび米ファイザー・独ビオンテックのメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは両方とも、これまでの変異株に対する効果ほどではないにせよ、デルタ株に対する予防効果があるとみられる。
また、査読前の論文を公開するサイト「medRxiv」に5月24日付けで発表された別の研究では、英アストラゼネカ社と米ファイザーのワクチンを2回接種した場合、デルタ株による症状に対して、それぞれ60%と88%の効果があると推定されている。さらに、米国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長によれば、1回接種で完了する米ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンがデルタ株に対して有効であるという直接的および間接的な証拠があるという。
しかし、7月8日付けで学術誌「ネイチャー」に掲載された別の研究によると、mRNAワクチンの1回接種や過去の自然感染では、デルタ株はほとんど抑制されなかった。
デルタ株に対する効果の低さに危機感を抱いたファイザー社は、「ブースター」と呼ばれる3回目の追加接種の認可を8月中に米食品医薬品局(FDA)に求める予定だ。ファイザー社とビオンテック社も、これまでの新型コロナワクチンを改良し、デルタ株対応型のワクチンを開発したと7月8日に発表した。8月に臨床試験が開始される予定だ。
「合理的に考えられる唯一の結論は、どうかワクチンを接種してください、ということです。そうすれば、感染が急増するデルタ株から身を守ることができます」とファウチ氏は7月8日の記者会見で訴えた。
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