2020年10月6日、ティラノサウルス・レックスの全身骨格化石「スタン」が、化石としてはオークション史上最高額となる3180万ドル(当時の為替レートで約33億円)で落札されて以来、古生物学会は大きな謎に包まれていた。これほどの高額でスタンを落札した匿名の人物は誰なのか? その人物はスタンをどうするつもりなのか?(参考記事:「33億円で落札のティラノ全身化石、今後の研究に懸念も」)
その答えがついに明らかになった。スタンは、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビに新設される、自然史博物館の目玉になるという。
今年初め、ナショナル ジオグラフィックはスタンの足取りを追い、米国の貿易記録から、重量5.6トン、スタンの落札価格と同額の3184万7500ドルの貨物が、2021年5月にニューヨークから中東に輸出されたことを突き止めた。そしてアブダビ文化観光局は3月23日、同国の文化地区であるサディヤット島に建設中のアブダビ自然史博物館にスタンが収蔵されると発表した。アブダビは、オイルマネーで潤うUAEを構成する7つの首長国のうち、最も大きく、最も裕福だ。
2025年に完成予定のアブダビ自然史博物館は、広さが3万5000平方メートルで、アラビア半島の動植物を中心とした地球上の生命の歴史と、138億年の宇宙の物語を紹介するという壮大な目標を掲げている。
併せてアブダビ当局は、マーチソン隕石の破片を購入したことも明らかにした。1969年にオーストラリア上空で破裂して地上に降り注いだ炭素質コンドライトという種類の隕石で、70億年前の粒子まで含まれており、太陽系が誕生して間もない頃の化学的性質の研究に長年利用されてきた。(参考記事:「隕石中のDNAの基は宇宙起源。地球外生命!?」)
アブダビ文化観光局のモハメド・ハリファ・アル・ムバラク局長は、ナショナル ジオグラフィックの取材に対し、「ここアブダビは自然史の新たな拠点となり、人類が知る最も驚異的な標本のいくつかを通じて、私たちの宇宙の物語を伝えることになります」と語った。「私たちは自然からの貴重な贈り物を保護し、世界の人々と分かち合えることを誇りに思っています」
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