「コロナに決してかからない人」はいるのか? 研究が進行中

生まれつきの遺伝子変異に注目、治療薬の開発に期待も

2022.04.11
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新型コロナウイルス(紫色)に感染した患者の細胞(緑色)の走査型電子顕微鏡画像。色は人工的に着色したもの。(PHOTOGRAPH BY NIAID, NIH, SCIENCE SOURCE)
新型コロナウイルス(紫色)に感染した患者の細胞(緑色)の走査型電子顕微鏡画像。色は人工的に着色したもの。(PHOTOGRAPH BY NIAID, NIH, SCIENCE SOURCE)
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 ギリシャ人で客室乗務員のアンゲリキ・カウカキさんは、自分は異常なのではないかと考えていた。感染リスクが高い状況に何度も身を置きながら、一度も新型コロナウイルス感染症にかからなかったからだ。

 コロナに感染する可能性の高い職場で同僚たちが陽性になっても、彼女は体調を崩さなかった。2021年7月にはパートナーが感染し、10日近くも高熱と耐えがたい痛みに苦しめられた。彼女もアテネのワンルームマンションで2週間一緒に隔離されたが、何の症状も出なかった。PCR検査と迅速抗原検査を受けるたびに結果は陰性で、パートナーの感染が確認されてから23日後に受けた検査でも、彼女の血液中に抗体は見つからなかった。

「お医者さんからは毎日のように『あなたも感染しているかもしれない』と言われていましたが、何度検査をしても陰性だったのです」

 彼女もパートナーもワクチンを接種していた。それでも、パートナーはオミクロン株が大流行した2022年1月に再び感染した。その時もカウカキさんは彼と一緒に5日間隔離されたが、またしても症状は出ず、検査結果はずっと陰性だった。

“異常”の原因を彼女が探ろうとしたのはこのときだ。

 インターネットで情報を収集してみると、アテネアカデミー生物医学研究財団の免疫学者であるエバンゲロス・アンドレアコス氏の研究を知った。氏は、国際コンソーシアム「COVID Human Genetic Effort」のメンバーとして、新型コロナに感染しない人がいる理由を解明するために遺伝子の変異を調べていた。

 アンドレアコス氏らは、研究に参加してくれるボランティアを募集したところ、世界中でカウカキさんと同じような経験をした5000人以上から応募のメールを受け取って驚いた。彼らは、研究対象となる基準を満たした20パーセントの人々から集めた唾液サンプルを使って遺伝子を調べ、新型コロナウイルスに感染して重症または中等症になった患者にはない変異を探したいと考えている。新型コロナ耐性の鍵がそこに隠されているかもしれないからだ。

「新型コロナ耐性をもつ人はおそらく少ないでしょう」とアンドレアコス氏は言う。「けれども前例はあります」

 科学者たちは今、新型コロナウイルス感染症への耐性のしくみを解明し、その特性を利用して新薬を開発できるかどうか、研究を急いでいる。

次ページ:エイズやノロウイルスへの耐性をもつ人々

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