日本の京都大学野生動物研究センター熊本サンクチュアリに移されたボノボが、四半世紀以上前に別れた妹と甥を覚えていたという研究結果が、2023年12月18日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要（PNAS）」に発表された。論文によると、この事例は、ヒト以外の生物がもつ社会的記憶としては、これまでで最長記録だという。以前の最長記録を保持していたのはハンドウイルカであり、彼らは20年ぶりに聞いたかつての群れの仲間の声を認識できることが確かめられている。（参考記事：「イルカの記憶力、20年前の仲間を認識」）
熊本サンクチュアリに暮らすボノボのルイーズは、米サンディエゴ動物園で生まれ、妹のロレッタと甥（おい）のエリンと一緒に暮らしていた。だが、1992年に米シンシナティ動物園へ、2014年には熊本サンクチュアリに移された。（参考記事：「熊本サンクチュアリと動物福祉と研究の未来」）
野生のメスのボノボは成熟すると群れを離れ、近隣のコミュニティーに加わって自分の家族を作る。そのため、故郷を離れて、一緒に育った仲間たちと二度と会えなくなるという状況は、ルイーズにとってごく自然なものだった。
ところが2019年、研究者らがルイーズに対し、妹のロレッタの写真と、彼女が一度も会ったことのないボノボの写真とを並べて見せてみると、ルイーズは見知らぬボノボには目もくれずに妹の顔をじっと見つめた。また、甥と見知らぬ個体の写真とを並べて見せ、視線の動きを追跡する赤外線カメラでデータを収集したところ、見知らぬ個体にはほとんど興味を示さなかったことが確認された。ルイーズの目は甥の方に注がれていたのだ。
ルイーズが妹と甥の姿を目にしたのは26年ぶりのことだ。にもかかわらず、8回行われた実験において、当時46歳だったルイーズは、一緒に暮らしたことのないボノボよりも、長年会っていなかった親戚の方を好んで見つめる傾向を強く示した。
鮮明な記憶
今回の調査のアイデアは、飼育下の大型類人猿に関する約15年間におよぶ研究から生まれた。
「われわれはいつも、大型類人猿の研究のために世界中の動物園を訪れています。そして、何年もたってから再訪したときに、彼らがこちらをはっきりと覚えていると感じることがよくあるのです」と、論文の上席著者である米ジョンズ・ホプキンス大学の比較心理学者クリストファー・クルペンイェ氏は言う。
今回の研究を行うために、科学者らは、日本、英国、ベルギーの施設で飼育されている合計26頭のボノボとチンパンジーから視線追跡データを集めた。各個体には、最短で9カ月、場合によっては数年から10年以上にわたって顔を合わせていない元仲間の画像と、それと同種・同性の見知らぬ別個体の画像が並べて示された（試験の対象となった個体は4歳から46歳で、平均年齢は約26歳）。
この研究ではまた、これらの大型類人猿には、中立的または否定的な関係にあった相手よりも、自分が好意を持っている相手の方を見ることに、わずかながらも統計的に有意な傾向が認められた。これは、ルイーズがロレッタとエリンの顔を覚えていただけでなく、この2頭とどのような関係を持っていたのかを思い出したことを示唆している。（参考記事：「チンパンジーも閉経する、ヒト以外の霊長類で初の報告」）
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