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35年以上巡礼に参加してきたリチャート・アイバル・キスペ・ソトさんは言う。「氷河が消え、私たちは何が起こったのかと自問しました。人は、『罪だ、罪を犯したからだ』と言うでしょう。けれど、そうではありません。原因は温暖化です」(PHOTOGRAPH BY ARMANDO VEGA)
夜、雪をかぶった山頂に反射してこぼれ落ちる月明かりを頼りに、アンデスの巡礼者たちは山を登り、聖なるコルケプンク氷河を目指す。ペルー南部の高地、クスコ県オコンガテで年に一度、4日間にわたって開催される「コイヨリッティ」は、数百年前から続く伝統ある祭りだ。コイヨリッティとは、先住民の言語で「雪の星」を意味する。アンデスの各地からやってきた先住民たちは、シナカラ渓谷を貫く巡礼路を旅して、聖地に集まる。
「コイヨリッティへ行くと、そこはまるで別世界のようです」。そう語るリチャート・アイバル・キスペ・ソトさんは、35年以上前から巡礼に参加してきた。「そこでは、自分自身が変えられてしまいます。雪のなかに身を置き、星や月にもっと近づくために行くのです。朝一番に昇る太陽の光を見ようと、期待で胸を膨らませ、そして清められて戻ってきます。あの山の上で、私たちは生まれ変わります」
コイヨリッティは、アンデスに住む人々の伝統と信仰に欠かせない祭りだった。新型コロナウイルスによるパンデミックが始まる前は、およそ10万人の巡礼者が集まっていたが、2021年は正式に開催されるのかどうかまだ決まっていない。
そして今、祭りが行われるコルケプンク氷河の輝きが失われようとしている。ここで降り積もった雪は氷に変わり、いずれは氷河の一部になるはずだが、その雪が解けている。研究者によると、ペルーのアンデス山脈を覆う熱帯氷河は、ここ数年間で約30%縮小したという。
「気候変動の影響は、私たちの生存だけでなく、意味を見いだそうとする私たちの能力までも脅かしています」。2017年からコイヨリッティの伝統を記録し続けている写真家のアルマンド・ベガ氏は言う。「巡礼者たちが母なる地球の力に敬意を示すことによって、自然に対する人々の意識が変わってくれることを願っています。自然は、人間の生活を良くするために搾取される資源というだけではなく、大切に保存すべき贈り物でもあり、人間の魂を覗く窓でもあるということを、知ってもらうために」
通常は5月下旬から6月上旬に開催されるコイヨリッティは、カトリックの伝統と先住民の信仰が入り混じった宗教儀式だ。先住民が神聖な存在とみなす氷河と、イエス・キリストの両方を礼拝する。巡礼の中心となる山のふもとの聖地には、「コイヨリッティの主」と呼ばれる大きな岩がある。岩にはキリストの絵が描かれ、信者たちは夜遅くまで健康、平和、繁栄を求めて踊り、祈りをささげる。