私が伝統的部族社会から学んだこと

ジャレド・ダイアモンド教授。(写真クリックで拡大)

大塚:このたび出版される著書『昨日までの世界』は現代の工業化社会と伝統的社会の比較という独特の視点で書かれていますが、まずはどこからこのアイデアを得たのかお聞かせください。

教授:私は49年前からニューギニアで研究を続けています。今回のアイデアはその体験から得たものです。

 当初の研究テーマは鳥でした。ニューギニアを選んだのは世界一美しい鳥たちがいるからですが、その一方で、1000を超える部族がいて、言語も異なります。ニューギニアで何かをしようとしたら、ニューギニア人にガイドを頼まなければなりません。そのため、私はいつもニューギニア人と一緒に行動し、話をしていました。

 ニューギニア人と仕事をしたことは、私の人生のなかでももっとも鮮烈な体験でした。彼らは私たちと全然違うかと思えば、同じところもある。とても魅力的な人々であり、さらに、子育てや危機への対応など、彼らから多くのことを学びました。それが発想の原点ですね。

 実は、ニューギニアの研究の2年目からナショナル ジオグラフィック協会の支援を受けているんですよ。

大塚茂夫『ナショナル ジオグラフィック日本版』編集長。(写真クリックで拡大)

大塚:そうなんですか? もちろん教授が「ナショナル ジオグラフィック協会付き研究者」であることは知っていますが、当時からナショジオの支援を受けていたのは初耳です。

教授:2年目の1965年に支援を申し込んだんです。まだ論文を出していませんでしたし、なんの資格もなかったのですが、私はその前の年にすごくいいフィールドを見つけていました。

 ナショナル ジオグラフィック協会には「すべての支援が成功しなくてもかまわない」という素晴らしい哲学があるんです。彼らは小さい支援をたくさん行って、あまり成果が出ないものもあれば、成功するものもあって、そのなかからジェーン・グドールやルイス・リーキーのような偉大な研究が出てくればいいと考えています。これはほかの支援プログラムもぜひ見習ってほしいですね。

1970年3月号に当時の紹介記事が!(写真クリックで拡大)

 というわけで、ナショナル ジオグラフィック協会はギャンブルに出て(笑)、その鳥の研究に1800ドルを提供してくれました。おかげで、いくつか成果をあげられて、次の年には3500ドルを申し込んで、それも実現しました。そしてまた5000ドル、8000ドルというふうに、ナショナル ジオグラフィック協会は私のこの一連の研究をずっと支援してくれて、いまに至ります。

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