火星隕石、故郷のクレーターを特定か

2014.03.06
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火星表面の分析。研究では台地(茶色)、水流の跡(灰色)、モハベ・クレーターからの飛散物が広がる部分(赤線部)に分けてクレーターの数が計測された。

Image courtesy Science/AAAS
 ノルウェー、オスロ大学の研究者らは6日、地球の広い範囲で見つかっている種類の隕石が、火星にある1つのクレーターに由来するようだと発表した。 シャーゴッタイトと呼ばれるこのタイプの隕石は、直径55キロのモハベ・クレーターから来た可能性がある。この見解が正しければ、火星の形成に示唆を与えるだけでなく、その歴史の中で、太古の火山活動が一部の研究者の推定よりも早く止まったと示すことになる。

 火星隕石は、小惑星の衝突によって火星から吹き飛ばされ、地球に落下してきたものだ。地球上で見つかっている火星隕石150個のうちほとんどは、シャーゴッタイト、ナクライト、シャシナイトという3つのグループのいずれかに分類され、これらはSNC隕石として知られている。ナクライトとシャシナイトはおよそ13億年前に形成されたと考えられているが、シャーゴッタイトの起源については一致した見解がない。

「Science」誌の発行に先立ち「Science Express」に掲載された研究によると、シャーゴッタイトの形成は、火星の中でも古いキサンテ大陸(Xanthe Terra)という地帯にあるモハベ・クレーターを起源とする可能性があるという。研究を主導した論文著者のステファニー・ワーナー(Stephanie Werner)氏は、「この種の火星隕石が生まれたと特定できる衝突クレーターは他にはない」と話す。

 カナダ、ウェスタンオンタリオ大学の同位体地球化学者で、この研究には関わっていないオードリー・ブービエ(Audrey Bouvier)氏は、「火星の地質化学データの解釈に役立つ非常に重要な研究だ」と評価する。「火星の形成、冷却、全球的な磁場の消滅など、この星の初期の歩みについて示唆を与えてくれる」。

◆同じ故郷から来た隕石

 ワーナー氏ら研究チームはシャーゴッタイトがモハベ・クレーター起源なのか否かを確かめるため、火星を周回する衛星探査機によるスキャンを用いてモハベ・クレーターの鉱物組成を判定。それを3個のシャーゴッタイトと、SNCに分類されない火星隕石ALH84001と比較した。その結果、クレーターの壁の露出部と、これらの隕石の鉱物組成が一致することが分かった。

 次に研究チームは、モハベ・クレーターの年代を周囲にあるクレーターの数と大きさから求めようと試みた。火星と月のクレーター形成年代決定モデルを作成し、アポロ月面探査計画で得られた年代の判明しているサンプルを用いて調整した。このモデルで、モハベ・クレーターの形成はおよそ300万年前と算出された。

 ワーナー氏は、隕石が火星から地球に届くまでに宇宙線を浴びた時間の長さに言及して、「この年数は、シャーゴッタイトが宇宙線に曝露された年数と非常によく適合する」と話した。これまで、シャーゴッタイトの宇宙線曝露年数は100万~500万年と推定されていた。

 さらにワーナー氏らのモデルでは、キサンテ大陸一帯が従来の推定より2億年古い約43億年前に形成されたと判定された。シャーゴッタイトの年代は、隕石中の放射性鉛を計測した研究では41億~43億年と推定されていたが、他の多くの同位体に注目した研究ではわずか1億5000万~6億年と若い計算になっていた。

 ワーナー氏のチームはこの相違を説明するため、小惑星が衝突してモハベ・クレーターを形成し、隕石を宇宙空間に弾き飛ばしたときに非常に大きな圧力が生まれたため、岩石の鉱物組成が一部変化し、年代がリセットされたという見方を示している。

◆多くの議論

 テキサス州、ヒューストン大学の同位体地球化学者で、以前にALH84001の年代を41億年と判定しているトマス・レーペン(Thomas Lapen)氏は、「火成作用によるシャーゴッタイトの結晶化年代については、多くの議論がある」と指摘する。「シャーゴッタイトの火成による結晶化年代が若いのは真実ではないという、この著者らの論証には納得できない」。

 科学者たちはALH84001隕石が他のシャーゴッタイトと一緒にモハベ・クレーターから飛ばされて来たと見ている一方、ALH84001の宇宙線曝露年数は少なくとも1000万年かそれ以上と考えている。隕石に詳しいニューメキシコ大学のカール・エイジー(Carl Agee)氏は、「ほとんどの人は、ALH84001とシャーゴッタイトに関連を見出していない」という。

 距離を考えると、火星の衛星探査機からのデータは正確ではない。これらの隕石が本当にモハベ・クレーターと一致するか確かめるには、火星探査車からのデータが必要だ。火星の岩石やちりを採取して地球に送るマーズ・サンプル・リターン・ミッションが実現すれば論争に決着がつくかもしれないが、10年以上先になりそうだ。

 今回の研究成果は、3月6日付で「Science」誌オンライン版に発表された。

Image courtesy Science/AAAS

文=Joseph Bennington-Castro

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