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財務体質の見直し迫られる出光興産、経営指標にROICを初導入して描く戦略の中身

脱炭素に向けスリム化

カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を背景に、出光興産が財務体質の見直しを迫られている。今後、化石燃料需要の減少は避けられず、主力の燃料油事業と資源事業は脱炭素と能力減の両方の投資が必要になるのに加え、新たな成長事業育成も求められる。資本効率性を高め筋肉質な企業体質とするためにも経営指標としてROIC(投下資本利益率)を初めて導入。2021年3月期の3%から22年3月末は4%、31年3月末には7%を目標に掲げる。

「スリム化には在庫や固定資産の減少と投資抑制の明確な指標が必要。ROE(株主資本利益率)では事業別の資本コストを意識できない。事業別にROICを管理し、能力削減と利益達成の両方を目指す」(関根宗宏経理財務部IR室長)考えだ。

石油元売りは油価の変動で備蓄の在庫評価が変わり利益が振れる。このため本業での利益を正しく判断できるよう、ROICの分子は在庫評価影響を除いた営業利益と持分利益を合わせた本業ベースでの利益とした。株主資本と有利子負債にかかるコストを合わせたWACC(加重平均資本コスト)は約4%だが、足元のROICは3%で調達コストが運用利回りを上回っている。「資本コストを回収できない事業は強化か撤退かを判断」(同)し、改善に努める。

SMBC日興証券の神近広二アナリストは「ベトナム・ニソン製油所の黒字化に時間がかかり、ソーラー事業の業態転換も遅れている。利益水準の向上にはこれらがカギ」と指摘する。一方で高機能材や再生可能エネルギーなどの戦略事業は、売上高やスピード感など異なる評価指標を用いて重点投資する。

5月に公表した23年3月期を最終年とする中計の見直しでは年間配当を160円から120円に下げたが、総還元性向は最大手のENEOSホールディングスと同等の50%を堅持する。このため「資本準備金」の9割を「その他資本剰余金」に振り替え常に安定配当できる体制を担保、その上で構造改革を急ぐ。

日刊工業新聞2021年7月22日

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