ニュースイッチ

既存事業の縮小避けられぬ自動車部品メーカー、新たな収益源は昆虫食?医療?

電動化の勢い加速

自動車部品メーカーが新規事業の開拓を積極化している。CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)などの新技術により自動車が変容し、部品メーカーの既存事業は縮小が避けられず、新たな収益源を確立することの重要性が増している。各社は培った技術を生かした新規事業を模索し、日用品などの開発や移動サービスの創出を目指す。新規事業を人材育成につなげる動きもあり、各社が知恵を絞っている。(名古屋・山岸渉、国広伽奈子)

「今後はモータリゼーションで自動車の台数が増える時代ではない。自動車の中身も変わる」。ファインシンターの井上洋一社長はこう業界の変化を指摘する。同社は粉末冶金技術を活用したエンジン部品、変速機部品などを得意としているだけに危機感は強い。

車体構造シンプルに 部品1万点減少

CASEの一つである電動化は、正に「自動車の中身」を変える動きだ。電動化の最たる例である電気自動車(EV)は、エンジン車と比べて車体構造がシンプルになる。エンジンがモーターに切り替わり、部品点数は約2万点とエンジン車と比べて1万点ほど減ると言われる。特に内燃機関に関わる部品を手がけるサプライヤーにとっては死活問題だ。一方、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)機運の高まりで、電動化の勢いはより一層加速する。

部品メーカー各社にとっては電動化に対応しつつ、生き残りに向け新たな収益源を確立することの重要度が増している。そこで活発になってきたのが、自動車部品以外の事業に取り組む動きだ。

「異業種」参入/“脅威”と“刺激”

各社とも共通するのは、自動車部品で培った強みを新分野でも生かす点だ。ファインシンターは自動車部品で培った粉末冶金技術を生かし、高たんぱく質で栄養価が高いとされるコオロギを使った昆虫食事業に乗り出した。

内燃機関向け部品への依存度が高い日本ピストンリングは、ピストンリング向けに開発した素材技術で医療分野などへの進出を狙う。排気系部品を得意とする三五(名古屋市熱田区)は部品加工技術を活用し、継ぎ手を減らしたステンレス製配管を販売する建設資材事業に参入した。自動車部品の精密な加工技術は他業界でも品質やコストの競争力の源泉になりそうだ。

またCASEの進展で、異業種から自動車業界に参入しやすくなると言われる。電子機器製造の鴻海(ホンハイ)精密工業がEV生産に乗り出すほか、米グーグルや米アップルなど世界的なIT大手も本格参入の機会を伺う。既存の部品メーカーは新たな“脅威”にさらされる。

新たな知見を生かす

部品メーカーが新規事業に取り組むのは、この新たな競争で勝ち抜くために、人材の育成につなげる狙いもある。新規事業を通じて自動車業界以外の文化に触れることで新たな知見の獲得などを目指す。東海理化の二之夕裕美社長は「自動車以外の新規事業に取り組まないと、自動車で良い仕事ができない」と強調する。

スイッチ、シートベルトなどを得意とする東海理化は新規事業の開拓を担う専門部署を1月に設けた。スマートフォンを鍵の代わりに使う「デジタルキー」を自動車だけでなく宅配ボックスなどに応用するほか、自動車部品で使うマグネシウム合金を活用してアウトドア用品を開発するなどさまざまな新規事業の可能性を探っている。

また東海理化はコワーキングスペースへの入居、展示会の出展などで異業種との新たな出会いの場も増やし、刺激を受けているという。新規事業を新たな収益源にするだけでなく、他業界の知見を得て新たな発想で既存事業を再成長させられれば理想的だ。

CASEに加え、コロナ禍やカーボンニュートラルの動きなどで事業環境の変化は激しさを増している。部品メーカーには、新規事業を通じて荒波を乗り越えるたくましさを身につけることが欠かせない。


【関連記事】 100余年の白熱電球生産に幕、老舗メーカーはなぜ復活できたのか
日刊工業新聞2021年9月24日

編集部のおすすめ