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環境ビジネスを成長軌道に乗せたリコーの秘訣

環境ビジネスを成長軌道に乗せたリコーの秘訣

閉鎖された複合機工場を改修した環境事業開発センター(16年の開所時)

リコーは2016年に開所した環境事業開発センター(静岡県御殿場市)から新しい環境ビジネスを生みだしている。木質ボイラや水力発電といった再生可能エネルギー関連、自治体の脱炭素化を支援するコンサルティング事業など、同社の事業基盤であるオフィス領域を飛び出した。製品を自ら使って完成度を高めることで、環境ビジネスを成長軌道に乗せた。

環境事業開発センターの敷地に木を砕いたチップ置き場がある。横のボイラを確認すると、内部は炎が上がっている。チップの燃焼による熱で水を温めてセンターに送り、空調や給湯のエネルギーの2割を賄う。灯油の購入が減り、年300万円前後の費用を削減ができた。直近の燃料費高騰でコストメリットが拡大している。

間伐材を燃料にする木質ボイラ。燃料費の削減に貢献

チップは箱根山麓の森林整備で切り出した間伐材を加工している。林業関係者は間伐材を燃料として販売して利益を得られる。リコーは化石資源の消費を減らして脱炭素や自然保全、地域経済に貢献するモデルを構築した。

木質バイオマスのエネルギー利用といえば発電が主流で、企業の事業所での熱利用は少ない。センターは御殿場市と連携し、燃料利用の経済性などを検証した。その知見を生かし、リコーグループは森林資源の地産地消を支援するコンサルティングを始めた。

センターは13年に閉鎖した複合機工場を改修し、環境製品の実証拠点として整備した。10万平方メートルの敷地で新しい技術を使いこなして課題を修正し、完成度を高めて実用化につなげてきた。

プラスチックの種類判別装置。製品化が近い

農業用水などの小さな水路に設置できる「マイクロ水力発電」もセンター発の製品だ。落ち葉が水車につまる課題があったが、3Dプリンターを駆使して改良した。懐中電灯のような装置を押し当ててプラスチックの種類を判定する機器も製品化が近い。見分けがつかない使用済みプラスチックの種類がすぐに分かり、リサイクルしやすくなる。

これまで13件の開発テーマがあり、4件の事業化に成功した。また、センターには企業や自治体関係者など年1000人が見学に訪れる。実際に稼働する設備は説得力があり、導入を検討する24の自治体とコンサルティング契約を結んだ。環境・エネルギー事業センターの出口裕一所長は「木質ボイラやゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)など、いろいろな提案ができる」とセンターの事業貢献を強調する。

使用済み製品の部品を再利用しながら生産した再生複合機

センターには複合機の再生工場もある。回収した使用済み複合機を解体し、使える部品を取り出して再度、組み立てて複合機に仕上げる。売上高は300億円規模となり、再生複合機も主力商品となった。グローバルRRセンターの花田和己所長は「資源を極限まで活用するサーキュラーエコノミー(循環型経済)に応えられない製品は淘汰(とうた)される。循環経済を一段も、二段も高める」と、さらに発展させる方針だ。

リコーは複合機をはじめとするオフィス機器の省エネ化を追求している。ただ、オフィス機器の消費電力はビル全体でみると小さい。また、社会全体の脱炭素化に貢献しようと思うとオフィス分野だけでは限界がある。16年のセンター開所式で当時の三浦善司社長は「リコーは環境保全と利益創出を同時に実現する環境経営に取り組んできた。さらに進化させ、これまでの事業領域にとらわれず、より広い分野での環境事業を創出する」とあいさつしていた。

その言葉通り、既存領域を超えた事業創出が進んでいる。環境事業がオフィス機器に続くビジネスになる日が来るかもしれない。

日刊工業新聞 2023年02月24日

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