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「このままでは生活が…」月9万円の年金でひきこもり43歳長女と暮らす74歳母親 どうする?

ひきこもりの子どものいる家庭は、状況によっては、将来的に家計が破綻する可能性があります。その対策について、専門家が解説します。

ひきこもりの子どものいる家庭が将来的に生活を続けるには?
ひきこもりの子どものいる家庭が将来的に生活を続けるには?

 ひきこもりの子どもがいる家庭は、両親が高齢になったり亡くなったりすると収入が減り、家計収支が悪化してしまうことがあります。親の収入だけで生活をすることが難しい場合、可能な範囲でお子さんにも生活費を負担してもらえないか。そのようなことも検討してみましょう。

障害基礎年金を受給する長女

 筆者は講演会で、ひきこもりのお子さんを持つご家族向けにお金の話をすることがあります。その中で「ひきこもりのお子さんのために、できるだけ貯蓄をすることが望ましい」ということもお伝えしています。しかし、ご家庭の事情によっては貯蓄を続けることが難しいケースもあります。講演会後、筆者に声を掛けてきた母親(74)もその一人でした。

「わが家はこのままでは生活が成り立たなくなってしまいそうで、とても(子どもの将来のための)貯蓄どころではありません。この先どうすればよいのか、分からなくなってしまいました…」

 母親はかなり思いつめた表情をしています。そこで、筆者は母親から事情を伺いました。

 現在は母親と長女(43)の2人暮らし。父親はすでに亡くなっています。父親は会社員の期間(厚生年金の期間)が短かったため、遺族厚生年金は少ししか出ませんでした。母親の年金収入(老齢年金および遺族年金)は月額換算で約9万円。自宅は持ち家で家賃は不要なものの、この金額ではとても親子で生活はできません。そのため、母親は清掃のパートで生活費を捻出していました。

 そんな母親もすでに74歳。体力の限界を感じ始め、パートの仕事を辞めようと思っているそうです。母親がパートを辞めた後、今の貯蓄を取り崩して生活をしたとすると4~5年で底をついてしまうだろうということでした。

 母親はその胸の内にある思いを筆者に伝えました。

「長女のためにお金を残してあげることは難しいです。なので、せめて小さい自宅くらいは長女のために残してあげたいと思っています。ですが、生活が厳しくなったら自宅を売却することも考えなければいけませんよね…。何かよいアドバイスはありますか」

 念のため筆者は母親に質問をしてみました。

「例えばこれから娘さんがアルバイトなどで働き、生活費の不足分を稼ぐことは難しいでしょうか。月に数万円を稼ぐのであれば、正社員や週5日のフルタイム勤務にこだわる必要はありません」

 すると母親の表情はさらに険しくなりました。

「長女はとても働けるような状態にありません。現在は精神疾患で障害年金を受給しているくらいですから…」

「なるほど。娘さんは障害年金を受給されているのですね。娘さんのことについて、もう少しお話しいただいてもよろしいですか」

 ひょっとしたら何とかなるかもしれない。筆者は心の中でつぶやきました。

長女に生活費を出してもらうことも検討

 長女は中学2年の頃にいじめに遭い、不登校になってしまいました。中学卒業後は通信制高校に入学しましたが、長くは続かず途中で断念。以後、社会との関わりを持つこともなく、家の中で静かに過ごすようになっていきました。

 長女が17歳になった頃、母親に心の不調を訴えるようになり心療内科を受診。20歳を過ぎた頃、医師の勧めもあり障害基礎年金を請求することになり、その後、障害基礎年金の2級を受給することができました。長女は障害基礎年金を受給するようになってから今まで、自分の通院費や薬代、ちょっとした日用品以外はお金をほとんど使ってこなかったようです。

 障害基礎年金の2級と障害年金生活者支援給付金を月額換算すると約6万9800円(2022年度の金額)。ここから生活費を捻出することも検討できそうです。

 そこで筆者は「お母さまにとってあまりよいお話ではないでしょうが…」と前置きをした後、次のような提案をしました。

「いつかは娘さんにもお金の話をしなければならないときがきます。そのタイミングは今なのかもしれません。お母さまがパートを辞めようと思っていること。家計の収支が赤字になってしまうこと。そして足りなくなった生活費は娘さんからも出してもらえないか、お話ししてみるのはどうでしょうか」

「やはりそれしかないですかね…。講演会では『ひきこもりの子どものために貯蓄することが望ましい』と聞きましたが、子どもからお金を出してもらってもよいものなのでしょうか」

「お話を伺う限り、娘さんは今まで貯蓄が可能なほどの年金、給付金を得ていたと思われます。やはり、これからは娘さんにも生活費の一部を出してもらうしかないかと思われます」

 母親はしばらく黙り、何かを考えているようでした。ひょっとしたら、長女のために自分が貯蓄できないことに心を痛めているのかもしれません。

 筆者は最後に言いました。

「今まで娘さんが暮らしてこられたのは、お母さまの頑張りがあったからでしょう。70歳を過ぎても働き続けるなど、お母さまもやれることは十分やってきたと思います。これからの生活をお母さまが全部背負うことはありません。親子で支え合って生きていくことも検討してみてください」

「そうですね。長女にもこれからの話をしてみようと思います」

 母親はそう答えました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

コメント

1件のコメント

  1. 障害基礎年金はずっと受給されるわけではありません。受給停止になったら生活費を出すことは出来なくなります。