東京2020パラリンピック。たくさんの想いが詰まったアスリートたちの「ありがとう」が胸を打つ

東京2020パラリンピック。たくさんの想いが詰まったアスリートたちの「ありがとう」が胸を打つ
2021.09.29.WED 公開

2021年9月5日、東京2020パラリンピックが幕を閉じた。連日数々の名シーンが生まれ、選手たちの活躍に注目が集まったが、もうひとつ注目してほしいものがある。それは競技終了後に日本代表選手たちがSNSで発信した「感謝の言葉」。前大会から4年+1年、苦しい時期を耐え抜いたアスリートたちの想いが詰まった感謝の言葉を紹介しよう。

【水泳】木村敬一
「支えてくださった皆様には、どんなに感謝しても足りません。今は幸せでしかないです」

先天性疾患により、2歳のときに視力を失った木村選手は、2008年の北京パラリンピックから2016年のリオパラリンピックまで3大会連続出場を果たし、通算で銀メダル3、銅メダル3を獲得。そして今大会、悲願の金メダル獲得を目指して練習に取り組んできたが、ついに男子100mバタフライ(S11)で金メダルを手にした。金メダル獲得を知った瞬間は隣のレーンで泳いでいたライバルの富田宇宙選手と抱き合って歓喜。その後、表彰台で君が代が流れると、「金メダルを獲った実感が一気に込み上げた」と、大粒の涙を流し多くの人の涙を誘った。そんな木村選手が何度も口にしたのが「幸せ」という言葉。自身のSNSにも、自分を支えてくれた人たちへの感謝の言葉と「今は幸せでしかない」という言葉を記した。

【水泳】富田宇宙
「正に“獲らせてもらった”メダルです」

3歳から水泳を始めるが、高校2年生のときに徐々に視野が狭くなる進行性の網膜色素変性症と判明。大学卒業後、パラ水泳の世界へ飛び込み、トップクラスの成績を残してきた。パラリンピック初出場となった今大会の結果は銀メダル2つ、銅メダル1つ。メダル獲得後、「練習をサポートしてくれる皆さんの努力がこうして結実した。自分はその努力を入れる器のようなもの」と語った富田選手がSNSに書き込んだのは「獲らせてもらったメダル」という言葉。視覚障がいの選手が泳ぐ際、壁が近づいていることを専用の棒で選手を叩いて教えるタッパーという人がいる。そうした競技を支えるパートナーをはじめ多くの人の協力への感謝の気持ちが「獲らせてもらった」という言葉に繋がったのだろう。

【陸上競技】辻沙絵
「本当にいろんな人に支えられてきた5年間。幸せ者です。こんなに応援してもらえるって人生であるのかな」

辻選手は、高校ではハンドボールで全国大会に出場、大学で陸上短距離に転向し、リオパラリンピック400m(T47)では銅メダルを獲得した。今大会では金メダルが期待されたが、惜しくも女子400m(T47)で5位、女子200m(T47)で予選敗退とメダル獲得には至らなかった。しかし、懸命に走りぬくその勇姿は多くの人に感動を与えた。リオ大会から5年、メダリストとして注目されるようになった一方で、思うような結果が出ないこともあり、その重圧から競技をやめようかと思ったこともあるという。そんな中で試合に挑んだ辻選手は閉会後、目標達成に向けて一緒に歩んでくれた水野監督や、所属先の日本体育大学、支援してくれたスポンサー、応援してくれたファンなどに向けて「苦しい時も応援してくださる色んな方が居たから、競技を辞めずに前向きに取り組めました。本当に、ありがとうございました」と、感謝の気持ちをSNSに綴った。

【車いすバスケットボール】藤本怜央
「ボランティアさん達と。みんながいたから素晴らしい大会になりました」

決勝戦で、強豪・アメリカと互角の勝負をして日本中を沸かせた男子車いすバスケットボール。堂々の銀メダルを獲得したが、大黒柱・藤本選手は自身のSNSに大会ボランティアの人々と一緒に撮った写真とともに、その感謝の言葉をアップした。するとこのコメントを同じチームの古澤拓也選手がリツイート。「多くのボランティアさんや関係者の方々がいたことで間違いなくHOMEとして戦えました!」と、銀メダルの裏にあった多くの人の支えを紹介した。また、藤本選手の投稿には、メダルはみんなで勝ち取ったとでも言うように「これが本当の #TeamJapan」というハッシュタグがつけられていた。

【ゴールボール】欠端瑛子
「今大会をきっかけにこれからもっと盛り上がって行ければいいなと思います」

先天性白皮症による弱視の欠端(かけはた)瑛子選手は、かつてはスポーツが好きではなかったというが、高校2年生のときに友人の誘いでゴールボールをはじめた。その後、身長165㎝という、プロ野球選手だった父親譲りの恵まれた体格からくり出されるパワフルな投球を活かし、2012年のロンドンパラリンピックで金メダルを獲得。今大会では日本代表チームの得点源として活躍し、銅メダルを手にすることができた。そして閉会式直前、金メダルに届かなかったことを悔しいとしながらも応援してくれた人たちに向けて感謝の言葉をSNSにアップ。

さらにその直後には、「大変な状況の中たくさんのサポート本当にありがとうございました。私はオリパラが開催された事とても嬉しく思っています」と、コロナ禍の中での大会を実現してくれたすべての関係者に感謝の気持ちを伝えると同時に、この大会をきっかけにゴールボールが盛り上がっていくことを期待する前向きなコメントをアップした。

【車いすテニス】眞田卓
「この舞台で一緒に戦ってくれた国枝選手に感謝です!」

19歳のときにバイク事故で右足を切断。その後すぐに車いすテニスをはじめたが、最初は趣味程度だったという。しかし2011年に本格的に競技として取り組むようになるとめきめきと頭角を現し、翌年のロンドン大会でパラリンピック初出場を果たす。さらにリオ大会ではダブルスでベスト4入りするなど注目の選手に。そして今大会では北京大会とロンドン大会の男子シングルス金メダリストの国枝慎吾選手とダブルスを組みメダルを狙ったが、結果は惜しくも4位。試合後にSNSに投稿したコメントでは「負けてしまいました」と悔しさをにじませながらも、国枝選手への感謝の気持ちと、応援してくれた人々へのお礼の言葉を記した。その言葉と添えられた写真には、国枝選手へのリスペクトの気持ちがあふれていた。

【陸上競技】澤田優蘭
「みんなで試行錯誤し、繰り返し練習してきたので、本当に嬉しいです」

6歳の頃に網膜色素変性症を発症した澤田選手。陸上を始めて2年後の2008年、北京パラリンピックに出場したが、その後競技を離れた。そして今年、13年ぶりにパラリンピックの舞台に立った澤田選手は、得意の走り幅跳び(T12)と100m(T12)の他に、今大会から採用された新種目ユニバーサルリレーにも出場。この競技は性別、障がいの異なる4人(ガイドを除く)の選手がチームとなり、バトンではなくタッチでリレーを行うというものだ。走者の組み合わせやタッチワークなどによって結果に大きな差が出る為、リレー候補選手たちは合宿を重ね、強化を図ってきた。レース後に澤田選手がSNSに書き込んだ感謝の言葉と、「みんなで試行錯誤し、繰り返し練習してきたので、本当に嬉しいです」というコメントからも、その苦労と、チームみんなでメダルを獲得したことへの喜びがうかがえる。

【車いすラグビー】乗松聖矢
「次こそは最高の笑顔を」

2018年の世界選手権で優勝を果たした車いすラグビー日本代表は、東京大会の金メダル候補と言われていたが、結果は銅メダル。しかし画面越しでも伝わってくる選手達の気迫のこもったプレーに、日本中が興奮し勇気を貰ったことは間違いない。チームのメンバーである乗松選手は、SNSにスポンサーや家族、友人やチームメートなど大会に関係した全ての人に対する感謝の言葉とともに、「次こそは最高の笑顔を」と綴った。短いながらも3年後のパリパラリンピックでの優勝を誓った言葉は爽やかで力強かった。パリ大会まで、引き続き見守りたい。

アーチェリー:重定知佳
「今までありがとう。これからも宜しくね。」

中学2年生のときに両足がまひする難病を発症した重定知佳選手は、車いすテニスなどを経て、2015年にパラアーチェリーと出会った。趣味として始めたアーチェリーだったが、翌年の全国障害者スポーツ大会で優勝。その大会で選手として憧れていた上山友裕選手との運命的な出会いがきっかけとなり、本格的に競技に打ち込むことになった。その後「ウエシゲペア」として練習を重ね挑んだ東京2020大会。その息の合ったプレーからメダルが期待されたが惜しくもベスト8で敗退。重定選手は試合後、5年間をともに戦い抜いた同志・上山選手と、支えてくれた末武コーチへの感謝の言葉をSNSに綴った。「メダルには届かなかったけど、共に歩んできたこの5年は最高でした」という言葉が、絆を物語っていた。

【卓球】古川佳奈美
「応援してくれる人がこんなにいるんだなって改めて実感。メダルは無いけど、やり切りました!!」

卓球女子シングルス(クラス11/知的障がい)の日本代表・古川佳奈美選手は今大会がパラリンピック初出場。普段はめんたいこの製造工場で働く古川選手は、仕事をしながら練習に励む超多忙な日々重ねてきた。結果は予選敗退だったが、試合後にアップしたSNSには、井保啓太コーチや家族のほか、大会前の強化合宿から大会期間中までずっと練習相手となってくれた日本大学の学生たち、大会を支えたボランティアスタッフへの感謝の言葉が綴られていた。こうして多くの人が応援したのも古川選手自身の努力があってのこと。「これを経験にまだまだ強くなりたいと思います」と言う古川選手の今後の活躍が期待される。

今回紹介したコメント以外にも、多くの選手がSNSなどを通じて感謝の言葉を発信している。その相手は、大会運営の関係者や自身のスポンサーであったり、監督やコーチ、チームメート、競技パートナー、あるいはボランティアや家族、友人、地域でサポートしてくれている人々や応援してくれた人々とさまざまだ。それらの言葉に共通するのは、東京パラリンピックの舞台に立てたのは自分ひとりだけの力ではないという感謝の気持ち。こうした爽やかで明るい言葉は、大会が終わった後も私たちを前向きな気持ちにさせてくれる。私たちこそ、パラリンピックで活躍したすべての選手に「ありがとう」を伝えたい。

text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
key visual by Getty Images Sport

東京2020パラリンピック。たくさんの想いが詰まったアスリートたちの「ありがとう」が胸を打つ

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